新型「パッソ」はトヨタとダイハツの未来を指し示す“事件”
さて、この対局にある廉価系の小型車はどうなっているのか? 廉価系のマーケットは基本2つある。まずは一つ目として「東欧マーケット」だ。欧州の代表的Aセグメントであった先代フィアット・パンダは、はっきりと2人乗車が前提になり、リヤシートはエマージェンシー用と割り切られる。主要ターゲットは東欧諸国の庶民だ。価格が優先される度合いがぐっと強まる。100万円ラインというところだろう。ところが今、東欧諸国でこの手のクルマがもてはやされた時代が終わりを迎えている。経済発展に伴って、この手の市場がシュリンク(縮小)し、先進国型の高級志向にシフトし始めているのだ。実際パンダもモデルチェンジによって200万円級に一気にジャンプアップしている。 代わって注目を集めているのが、廉価系マーケットの二つ目、「アジアの新興国マーケット」だ。インド、ASEAN、そして富裕層の購入ラッシュが一段落して、普通の人たちがクルマを買うモードに入り始めた中国だ。アジアと一括りで言っても国力には結構差がある。ラオスやミャンマー、カンボジアのように、まだまだモータリゼーションが開花していない国もあれば、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアのように、すでに急成長期を通過したマーケットもある。もっと言えば、日本と韓国のように販売台数的には衰退期を迎えているマーケットもある。このアジアの下半分を受け持つのが新興国用小型車で、70万円のラインが求められる厳しいマーケットだ。 先進国マーケット、先進国プレミアム・マーケット、東欧マーケット、アジア新興国マーケットと、同じようなサイズでありながら求められるものが違うマーケットが存在し、かつ東欧マーケットの例を見ればわかるように、需要中心が経済発展に依存して変化する。だから明確なスタンダードが確立しにくいのだ。 まだら模様で見極めの難しいマーケットを睨(にら)んで、各社はクルマの方向性について常に迷っている。中には、先進国でもBセグメントカーとして売りつつ、同じクルマに新興国攻略車としてのポテンシャルを持たせたいと二正面作戦を選ぶメーカーもある。マーチやミラージュはまさにこれで、先進国と新興国で二股をかけつつ、結局は先進国ではポテンシャルが足りず、主要なターゲットは新興国という結果になっている。