新型「パッソ」はトヨタとダイハツの未来を指し示す“事件”
ダイハツに賭けるトヨタ
誤解を恐れずに言えば、トヨタはこの難しいマーケットの戦局を全部ダイハツに丸投げした。冷静に過去の成果を見れば、新興国マーケットでの戦いはトヨタよりダイハツの方が上手かったのは確かだ。美談風に言えば、トヨタがダイハツの力を信じて重要マーケットを一任したとも言える。過去二代のパッソ/ブーンは商品企画はトヨタが、設計と生産はダイハツが行って来た。新型の最も大きな違いは、商品企画から一貫してダイハツが舵を取ったという点だ。 新興国マーケットの成長は著しい。向こう20年間で5000万台の伸張があり得るマーケットなのだ。つまり現在年間新車販売台数が1000万台のトヨタが、ここからの戦績いかんによっては2000万台のメーカーになるかもしれない。 ダイハツはすでに、マレーシア最大の国策自動車メーカー、プロドゥア社の筆頭株主になっており、ASEANで大きな成功を収めている。ASEAN域内では関税が掛からない。つまりマレーシアを拠点に6億人規模のマーケット全体を狙うことが出来る。そのプロドゥアの主力製品はパッソ/ブーンをベースにしたマイヴィだ。今回のパッソ/ブーンのモデルチェンジの真の目的は、この新興国戦略車のポテンシャル底上げを狙ったものだ。 だからこそ、パッソ/ブーンを商品企画から全てダイハツに任せるということは、新興国戦略の多くをダイハツに任せるということになるわけだ。小型車をダイハツに任せることによって、トヨタはその強大なリソースを先進国マーケットに振り向けられる。この計画が予定通り進めば、トヨタは今後フォルクスワーゲンやGMと三つ巴の戦いを制し、「ビッグ1」として世界の頂点に君臨することになるかもしれない。その成否を担うパッソ/ブーンは、一見地味でありながら、見落とすわけには行かない重要モデルなのだ。 (池田直渡・モータージャーナル)