飛躍的に延びた平均寿命、自分の歯をなるべく残す戦略/歯学博士・照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<33> 歯が欠けたり、なくなったりした場合に人工物で補う装置を、専門用語で「補綴(ほてつ)」と呼びます。入れ歯やインプラントといった大型の装置はもちろん、銀歯やセラミックという、皆さんの口の中に入っていることが多い被(かぶ)せ物も補綴の一種です。 成人の歯は親知らずを除いて28本しかありません。食生活はもちろんですが、形態や見た目、姿勢などを回復させる、とても大切な役割が補綴にはあります。しかしながら被せ物を入れる経過に至るまでには、それだけ歯を大きく削る理由があったわけで、元の天然歯のサイズはその分小さく細くなっています。再治療を繰り返すことで歯の寿命が短くなり、最後は抜歯という選択につながりやすくなるという研究データも報告されています。 ダメになったらまた治療すれば良いという発想では、自分の持って生まれた歯を生涯保つことが難しい時代になりました。一番の理由は、平均寿命が飛躍的に延びているからです。 相談してアドバイスを受ける人が家族や友人という患者さんがほとんどで、これはごく当たり前だと思います。しかしながら、昭和から平成、令和を経て、歯科医療の根底も大きく変わってきています。私たちの親世代が受けてきた歯科治療は「歯科医院は痛くなったら行くところ」でした。「50歳過ぎたから入れ歯でよい、何回も治療するくらいならさっさと抜いてくれ」とおっしゃる患者さんもかつては一定数いましたが、最近はさすがに聞かないフレーズです。 歯を守るためにはどんな治療が最適かを医療者側が議論し、虫歯の診断基準ですら昭和とは変わってきています。たとえ初期の小さな虫歯であっても、詰めるものはすべて天然の歯より劣るので、ファーストタッチがいかに重要かという観点です。被せ物で補った後は極力再治療をしなくて済む材料を選択するというのも賢い考え方です。