「ゴルフ人生最高の一年」は悔し涙から始まった/古江彩佳インタビュー<前編>
東京五輪を逃したからこそ
パリ五輪の各国代表レースが決着する一戦。「これまで基本的にはっきりした目標は口に出さなかった。新たなチャレンジ」としてオリンピックを目指すことを公言してシーズンに臨み、圏内の世界ランキング日本勢2番手で大会を迎えたが、僅差の3番手だった山下美夢有が優勝争いを演じて2位に食い込んだ。山下より先にプレーを終えた最終日、逆転されることを半ば覚悟したように「それ(山下が落とすこと)を願うことなんてないです。(ランク更新で)ふたを開けてみて…って感じかな」ときっぱり言った。 「自分が頑張って勝ち取るものだって思っているので、何でも。だから、そう思いたくないって。オリンピックに出たかったなら、そこまでに自分が(もっと)頑張れば良かった。相手も相手で良かったので、そこはもう諦めがつきました」
ポリシーのままに結果を受け止めた3週後に訪れた歓喜の瞬間。ビッグタイトルを掲げたエビアンの地は、つくづく縁のある場所だと思う。13歳だった2013年、日本ジュニアゴルフ協会の海外派遣競技として「エビアン選手権ジュニアカップ」に出場した。「ハムとチーズのフランスパンが、超おいしかったことしか覚えてないんですけど(笑)」 「東京五輪」の日本代表切符争いで稲見萌寧に及ばず涙した2021年には、母・ひとみさんの助言もあって欧州でのメジャー2試合へのスポット参戦を決めた。現在のキャディであるマイク・スコット氏との初タッグで臨んだ1戦目のエビアンで4位に入り、同年末の最終予選会(Qシリーズ)挑戦へとつながっていく。 「東京オリンピックに行っていたら、米ツアーに来てないと思います。それこそ、エビアンに出ていないはず。その年のエビアンと全英(AIG女子オープン)に出たから、アメリカに行くって決めたので。そもそも、目標に海外挑戦がなかったんですよ。スポットで行くことはあっても、シーズンを通してっていうのは…」
“本家”からライトセイバー
ジュニア時代、地元の兵庫県で行われる女子ツアーを観戦するのが大好きだった。サントリーレディス、スタジオアリス女子オープン、マスターズGCレディース…。プロの一打一打に胸を高鳴らせた一方、少しだけ複雑な気持ちもあったそうだ。「宮里藍さん、上田桃子さん…。憧れの選手が海外に行っていて、会場にいない。それが寂しくて。そうやって寂しい思いをする子もいるのかなって思ったら、私は日本で長くやりたいって」 幼い頃に描いたものより、はるかに壮大となっている24歳のキャリア。エビアンの優勝会見で明かしたのは、映画『スター・ウォーズ』の劇中にある“May the force be with you.(=フォースと共にあらんことを/頑張れ、力がわき出ますように)”というセリフを心の中で唱えて気持ちを落ち着かせていたこと。これも予想外の広がりを見せた。 ファンの間では知られていた『スター・ウォーズ』好きの一面。“本家”ウォルト・ディズニー・ジャパンが反応して古江のもとへメッセージを送ってきてくれたという。メインキャラクターの一人であるオビ=ワン・ケノービが使う青いライトセイバーのレプリカグッズをプレゼントされてテンションが上がった。
「ジュニアの時からなかなか行けるところでもないと思う。藍さんが勝っているところという意識もなく、代表に選んでもらって、たまたま行ったのがエビアンだった。そういう意味では、すごく縁もあるのかな」 3年前よりも劇的な形でエビアンがターニングポイントとなったシーズン。正真正銘、最後の1打まで分からなかったベアトロフィ争いは古江の真骨頂といえるものだった。(聞き手・構成/亀山泰宏)