彬子女王殿下に辛酸なめ子さんがインタビュー! 能登の復興支援や日本文化を子どもたちに伝える「心游舎」への熱い思いとは?
■世界初! 漆が主人公の和歌を詠んで 辛酸 そして作られたのがこちらの二首でした。なんと、皇室初どころか世界初かもしれない、漆が主人公の和歌なのだとか? 【彬子女王殿下 御歌二首】 ・漆てふ若木の涙固まりて神へと届く光とならむ ・傷つきて涙こぼして倒されて命伝ふる漆うるはし 彬子さま 縄文時代から現代に至るまで漆の文化が続いてるのは、すごいことだと思います。そして漆は、ずっと人間に寄り添って命をつないできました。削られ、傷つけられて木肌がかさぶたのようになっている漆の木を輪島で見ました。人間に樹液を採取され、痩せ細った弱々しい姿になっても必死に生きていました。この漆の一生を考えると、すごく胸が詰まる感じがして、重苦しい気持ちになったのですが、最後は人間に切り倒してもらわないと、「ひこばえ」という芽が出てこないそうなんです。縄文時代からずっと人間と共に暮らし、切り倒してもらって新しいひこばえを生やすことで、命をつないできた植物だと教わって、胸のつかえが少し取れるような気がしました。その時に、漆の樹液が漆の木の涙のように感じられて。輪島に行ったからこそ、できた和歌です。 辛酸 クラウドファンディングの返礼として披露される「漆能」では、漆の精が出てくるとか。漆の気持ちに思いを馳せられるとは、優しいお心ゆえにですね。また、私を含めて漆の一生を知らなかった人も多いので、勉強になります。“縄文時代から漆が使われていた”というのも驚きで、なんだか縄文人が身近に感じられてきました。やはり当時も強度を高めるために使われていたのでしょうか? 彬子さま 器などをコーティングするという意味もあると思います。また、太陽に当たってきらきら輝く様子も、特別な印象だったのでしょう。祭事の際の道具として漆塗りのものが使われたと考えられています。
辛酸 光るものは魔除けにもよいと聞きます。一方で、漆はかぶれるので、素人が下手に手を出せないというイメージもあります。 彬子さま そんなことからも漆は古来人間にとって特別な存在だったのでしょう。 辛酸 彬子さまの和歌や「漆能」、クラウドファンディングがきっかけで、改めて漆の器に興味を持つ人も増えそうです。 彬子さま 日本文化関連で講演をする時にお話しするのですが、100円ショップで売っているお皿と10万円の漆の器が目の前にあったとして、学生さんに「どっちを選ぶ?」と聞いたら、100円のお皿を選ばれる方が多いと思います。ですが、なぜ漆の器が10万円もするのかということの説明があまりなされていないように思います。私も実際に輪島に行って、漆芸職人さんが器を作るのに途方もない工程を経ることを知って、価格以上の価値を感じました。職人の思いや実際の工程を知ることで、今は100円の器を選んだとしても、いつかお金が貯まった時に漆塗りの器を買いたいと思うきっかけになればいいなと思って、発信をしています。 辛酸 100円か10万円か……究極の選択ですが、漆の器がそのように手間ひまをかけて作られていると思うと、見方が変わります。 彬子さま 漆器は高尚な文化で、手に届かないものだと思っていらっしゃる方も多いと思います。ですが漆はもともと日本人の生活の中にあったものなので、楽しんで使っていただけたらと思います。 辛酸 味噌汁など汁椀のイメージが強いのですが、初心者におすすめの漆器はありますか? 彬子さま スプーンなどのカトラリー類は手に取りやすいと思います。あとは漆の飯椀もおすすめです。漆の飯椀でご飯をいただくと、保温効果が高くて、ご飯の余分な水分を吸収してくれるので、おいしくいただけます。私も以前は陶器を使っていたのですが、漆の飯椀に替えたら、最後まで温かくて、よりご飯がおいしくなったように感じます。 辛酸 それはすぐ買いに行かなければと思います。他にもご愛用の漆の道具がありましたら拝見させてください。 彬子さま 三笠宮妃百合子殿下からいただいた羽子板を模した帯留め(写真上)を大切に使っています。他の二つも帯留めで、菊や梅、蘭などの花を彫ったものと(写真右上)、私はお印が雪なので、雪の形の磁器に漆塗りをしたもの(写真右下)。それから愛用の筆ペン(写真左)です。 辛酸 どれも雅で格調高く、美術館に展示されていそうです。お印(※)が雪というのもおしゃれですね。 彬子さま 三笠宮家はお印がすべて木へんなのですが、私が生まれた時に、候補が欅や楡などの難しい漢字しか残っていなかったそうなんです。父が山がお好きなので、「山印にしよう」と思われたらしいのですが、「女の子に山っていうのはいかがなものか?」という意見があり、12月生まれなので雪山の“雪”になりました。皆さん雪の柄のものを見つけると私にくださるので、とてもありがたいです。父は生涯スキー教師と仰っていましたから、私がスキー教師の資格を取った時は、博士号を取った時よりも喜んでくださいました(笑)。 辛酸 やはり皇族の方は文武両道というか、スポーツもお上手なイメージがあります。 彬子さま 私はスポーツ万能というわけではなく、瞬発力だけはあるという感じでしょうか。陸上でも30メートル走があればすごく速いと思いますが、そこから落ちていきます。 ※皇族の方が記名の代わりに身の周りの品につける記章。