彬子女王殿下に辛酸なめ子さんがインタビュー! 能登の復興支援や日本文化を子どもたちに伝える「心游舎」への熱い思いとは?
■日本文化を子どもたちに伝える「心游舎」での活動 辛酸 彬子さまのさまざまな社会活動は、瞬発力を感じさせます。日本文化を身近に感じてもらうために立ち上げた「心游舎」をスタートしたきっかけは、何だったのでしょうか? 彬子さま 海外に長い間おりまして、その時に、日本のことだったら彬子に聞けとばかりに、政治・経済・文学・歴史・音楽など、なんでも私のところに話が回ってきたんです。自分がいかに日本のことを知らなかったのか、ということをその時に実感いたしました。例えば、イギリス人はイギリスの文化について、よく知っている人が多い。シェイクスピアの話になると、職業を問わずそこそこ話が盛り上がりますし。日本人で『源氏物語』について聞かれて、外国の方にきちんと説明できる人がどれだけいるのだろうか、と考えたら、そんなに多くないのではないでしょうか。海外に出るということは、日本の看板を背負っていくのと同じで、相手にとっては私が人生で最初で最後に会う日本人になるかもしれない。そのために、日本文化のことをきちんと正しく知って、発信していけるようになりたいと思ったんです。 辛酸 日本文化を子どもたちに伝えるワークショップも楽しそうです。 彬子さま 職人さんや作家さんにお目にかかる度に、皆さんが日本の伝統文化を残していかなければ、という危機感を強く持っていらっしゃるのを肌で感じてきました。そのお話を聞いているうちに、やはり日本文化の未来を担っていくのは、子どもたちだと思うようになっていったのです。日本文化を若い世代に身近に感じてほしい。畳でごろごろすると落ち着いたり、床の間にお花がいけてある様子を美しく感じたり、そう思える子どもたちが育っていかないと、本当の意味での日本文化は未来に残っていかないのではないか、と感じるようになりました。 辛酸 今は畳の部屋や床の間がある家が贅沢になってしまいましたが、和の空間に佇むことが日本人として一番落ち着くという感覚を取り戻せたら素敵ですね。お茶やお米、和菓子を作る体験など、大人でもワークショップに参加したいくらいです。 彬子さま ある農家さんの畑で1時間ほど草取りを手伝わせていただいたのですが、翌朝起きた時に動けないくらい全身が筋肉痛になりました。その時に、こんな大変な作業をしてくださっているんだと実感し、すごくありがたいことだと思いました。八ツ橋をテーマにしたワークショップは、京都産業大学の学生が運営するのですが、独創的なアレンジレシピを考えてくれました。八ツ橋の皮で餃子を作ってみた学生さんがいて、それは信じられないくらいおいしくなかったそうです(笑)。毎回本当にいろいろな発見があって楽しいんですよ。大人が参加できるワークショップもあるので、ぜひいらしてください。 辛酸 ぜひ参加したいです。高尚な日本文化ではなく、生活に楽しく取り入れられるワークショップなのがよいですね。 彬子さま 幼稚園で和菓子のワークショップを行なったら、1年後には、こしあんとつぶあんの違いがわかるようになって、子どもたちが皆、和菓子好きになりました。高尚だと思われがちな日本文化も必ずその魅力を伝える方法があるのではないかと常に思案しています。 辛酸 日本の伝統文化は平和をもたらし、人と人をつなぐ力があるのかもしれません。子どもたちの未来のために活動されていらっしゃいますが、彬子さまご自身は今後の夢や目標はございますか? 彬子さま 目標を設定すると、逆にそこに向かうしかなくなってしまいます。もしかしたら他にすごくいい選択肢があるかもしれないのに気づかないことがあるかもしれない。今までやりたいことは自然な流れで決まってきたので、これからも目標は定めないようにしていきたいと思っています。一つだけ挙げるとするなら、「心游舎」で育った子どもたちが、日本文化の魅力を知り、「心游舎」のお手伝いをしてくれるようになればいいなと思います。先日、キッズキャンプに幼稚園の時から参加してくれた子が、この素晴らしい体験を他の人たちに伝えていきたい、と言ってくれたのを聞いて、夢の一歩は踏み出せたかな、と思っています。 辛酸 夢や目標に対してアグレッシブにならず、流動的でいらっしゃるのもエレガントで素敵です。 彬子さま 助けてくださる方がたくさんいらっしゃって、本当にありがたいです。 辛酸 人徳や気品、教養……本物のプリンセスのオーラを感じて、ますますファンになりました。ありがとうございました。 photography: Sachiko Saito hair&make-up:Hiroko Takashiro interview & text:Nameko Shinsan