「ここまで明かすのか」正直すぎるシャンプー/家業を継いで気づいた、ダサい町工場を背負った父の信念 ~木村石鹸工業 後編
◆「ロジックの外」でこそ社員は動く
――木村社長は、お父様の大胆な判断をどう捉えたのですか? ITでやってきた考えとはもう全然違う。 僕だったらあんなリスクのある極端な決定は絶対にしないです。軟着陸というか、両者がうまくいくようにやる。 でもそれは、社員に「うまくバランスを取れ」と負担をかけるやり方だったんだなと。 親父は「わしはやり方知らんけどな」と言っていますが、「三年間あれば大丈夫。どうにかなるだろう」という妙な根拠があるんですよ。 社員に任せて、完全に信頼している。 だからキャッシュを用意して、「面倒な顧客に向き合わなくて済むように、新規顧客を獲得しよう」と営業のモチベーションまで上げている。 無意識かもしれませんが、すごいなと感じました。 ――そのスタンスを見習っていかれる? 正直、結果オーライではありますよね。 ある種の賭けというか。 ただ、これまでの事例を顧みるに、親父と同じく「社員を信じて任せる」ことで成功しているケースが多いんです。 『12/JU-NI(ジューニ)』もまさにそうです。 多胡が自ら作った商品で、彼が入社してから完成まで5年かかっている。 OEMの案件では価格がまったく見合わないものを作ってくるので、「多胡は開発には向いていないんじゃないか」と言われていたんです。 ところが好き勝手に最高のシャンプーを作って、それが今や会社のメインブランドに育った。 彼が研究に打ち込むのを止めていたら、おそらく完成していませんでした。 多胡も「木村石鹸の環境だから、任せてもらえて自由に開発ができました」とずっと言ってくれています。 なので、結果オーライでいいやと。 ――ITベンチャー時代にはなかった視点を、お父様から得られたわけですね。 親父の感覚は、やはり経営者を長く続けてきたからこそのものですよね。 僕は正直、小さい地方の会社だし、経営において参考になるものは全く無いと思っていました。 自分のやり方をきちんとインストールすれば、会社は良くなるだろうと思って帰ってきたんです。 親父の経営は「給与をとにかく上げろ」とか、ちっともロジカルじゃない。 でもロジックではないところで人が動くんだなと実感しました。 親父を喜ばせよう、恩を返そうと社員が真剣に仕事に取り組む。 その視点はIT企業にいた時は一切ありませんでした。 すごく勉強になりましたし、衝撃でしたね。