「ここまで明かすのか」正直すぎるシャンプー/家業を継いで気づいた、ダサい町工場を背負った父の信念 ~木村石鹸工業 後編
◆原資的に無理…でも父親は「給与を上げたれ」
――社員の給与を昇給するか否かについてお父様と意見の対立があったそうですね。 僕が戻ってきた時の給与の仕組みは、暗黒時代のマイクロマネジメントに則った能力評価でした。 それを廃止して、僕が全部決めることにしたんですね。 とはいえ分からない部分も多いので、親父にこれでいいか確認をとろうと。 すると親父は「なんで給与上がってないんや、もっと上げたれや」と言うんです。 僕としては業績に連動させて、よければ還元する、悪ければ下げるといったメリハリが必要だろうと。 とくにマネージャークラスはそうして反省を促さなければとITベンチャーにいた頃から考えていました。 ところが親父は「なんで下がんねん。みんな年取ってるやん、生活費大変やろ。上げたれ」と言う。 どう考えても原資的に無理だと返しても頑として聞かない。 最終的にしぶしぶ給与を上げたのですが、本当になんとかなったんですよ。 親父は商売とか経営とかはあまり関係ない。 「いいものを作る」と「社員が幸せかどうか」しか興味がないので、労働分配率がこうで原資がこれだけしかないとか、そんな説明は意味を持たず「全員の給与を上げろ」の一点張りです。 そのお金はいったいどこから持ってくるんだと(笑)。 ただ結果的に、給与が上がったことで社員も頑張ってくれました。 ――スタンスの違いが面白いですね。木村社長はビジネスの視点から、お父様は社員の生活の視点で見ておられる。 もうひとつ親父にかなわなかったエピソードがあります。 OEMがメイン事業だった頃、売上の35%を依存していた大口の顧客がいました。 そこが不義理を働きまして、親父は「そんな会社と付き合ったらあかん。 うちまで不道徳になるからもうやめろ」と主張する。 社員からすると、大口顧客を切ったら会社がつぶれるのではないかと考える。 ところが親父は「付き合っている方が危ない。35%の売上を失って赤字になっても、3年間は大丈夫や。 その間に同じ売り上げをとれる新しいお客さんを見つけたらええやん」と言う。 「わしはやり方知らんけどな。でもあんたらやったら、できるわ」と。 なんちゅうやり方やと思ったんですけど、実際3年のうちに以前の取引先を超える素晴らしい顧客が見つかったんです。 今ではOEMで一番のお得意様ですね。