ヘビー級のアンディスピューテッド・チャンプ
マイク・タイソンの影響力
しかしながら、ここにヘビー級の3王座を独占したルイスが依然として「比類なき王者」であることの証明を必要としたところが、ボクシングの奥深さだろう。すでに世界タイトル戦を10度以上も経験しながら、ルイスがそれに見合った尊敬を受けているかは疑問だった。マイク・タイソン(アメリカ)と戦っていなかったからである。 ランキング1位挑戦者との試合をしなかったとしてWBA王座をはく奪され、「3団体統一王者」でいられたのはわずか5ヵ月だったが、ルイスはタイソン戦実現に向けてこつこつと防衛戦をこなし続けた。この間、一度はハシーム・ラクマン(アメリカ)に不覚をとって王座から引きずり降ろされもしている。2001年4月のことだ。 ルイスは運動能力の高い大型サイズ(身長196センチ、リーチ213センチ)のボクサーパンチャーとして高く評価されながら、試合にむらっけがあり、王座陥落を2度経験している。ラクマン戦も油断が招いた番狂わせとみられた。 もしルイスがラクマンに雪辱しないままリタイアしたとしたら、おそらくは「比類なき王者」の記録を残したにせよ、名チャンピオンとして記憶されることはなかったろう。7ヵ月後の再戦でラクマンをKOしたルイスはついに次でタイソンと戦い、鉄人に8ラウンドKO勝ちを収めた。そしてもう一試合戦ってから(ビタリ・クリチコに6ラウンド終了TKO勝ち)グローブを壁につるしたのだ。生涯戦績は41勝(32KO)2敗1分。 引退から20年、新たな「比類なきヘビー級王者」誕生を見届けたルイス。フューリー対ウシクの勝敗予想を外してしまった元チャンプは、両者合わせて1億1600万ポンド(約224億3000万円=フューリー約158億3000万円、ウシク約66億円)にもなるというファイトマネー総額にはさらに驚いたのではないか(ルイス対タイソンの最低保証額は双方1750万ドルだった)。 旧敵タイソンは近々、ユーチューバー・ボクサーとグローブを交わすことになっている。きっとそれなりのマネーを手にするに違いない。一方この件をきっかけに、自身のタイソンとの“再戦”について聞かれたルイスは「お金がものを言うよ」と悪戯っぽく語ったそうだ。冗談であってほしいが……。