内閣改造で支持率は上がる? 過去の事例は 坂東太郎のよく分かる時事用語
「改造」と「解散」佐藤元首相の言葉
もともと9月とみられていた改造を8月3日に前倒ししたのは、一刻も早く人心を一新させて政権を浮揚させなければならないという焦りの表れとみる向きがあります。第3次安倍第2次改造内閣で入閣させた稲田朋美防衛大臣の言動が再三にわたって物議を醸し、改正組織犯罪処罰法の国会審議で金田勝年法務大臣の不安定な答弁が批判されるなど首相の任命責任が問われるなか改造で入れ替えれば穏便に済むという計算もあったのでしょう。しかし稲田大臣は結局辞任しました。首相の親しい友達が理事長を務める学校法人「加計学園」問題も世間から疑いの目で見られており東京都議会議員選挙では歴史的惨敗を喫しました。それやこれやを吹き飛ばす改造効果は見込めるでしょうか。 長期政権となった佐藤栄作元首相の名言とされる「改造をするほど首相の権力は下がり、解散をするほど上がる」が本当かどうかが試されます。改造となると「大臣になりたい」と切望する与党議員や所属する派閥は一時的に首相への反発を和らげます。しかしポストは限られているので改造後は処遇してくれなかった多くの議員が不満を抱くのです。 内閣支持率が急激に低下しているのも気がかり。ほんの少し前まで「安倍1強」をおう歌していたのが、これまた自民党の重鎮だった川島正次郎衆議院議員の名言「政界は一寸先は闇」通り、一天にわかにかき曇り、時事通信や毎日新聞の最新世論調査では支持率が20%台まで落ち込んでいます。過去の失敗例をみると低支持率の挽回は難しいので期待薄といわざるを得ません。 数少ない成功例は他ならぬ安倍首相の第1次政権(22%から33%)ですが、改造からまもなく農林水産大臣が「政治とカネ」で辞任。他の閣僚にも飛び火するなか開かれた臨時国会で所信表明演説をした直後に首相辞任を表明して日本中を驚かせました。後に難病の悪化とわかるも当時は「政権ぶん投げ」と批判されたものです。 政権が弱体化したとみるや有力者や人気者は「泥船には乗りたくない」と要請があっても内閣の一員になるのをためらうでしょう。崩壊した後を狙おうにも「連帯責任がある」とマイナス評価させる恐れがあるので。逆に泥船だろうが何だろうが大臣になりたいという人は何らかの傷(能力や過去の不始末など)を隠し持っているかもしれません。そうした人物が派閥から推薦された場合、政権が元気ならばはね付けられそうなものを弱っていたら領袖に遠慮して受け入れざるを得ないかもしれません。となると、改造後にスキャンダルさく裂という負のスパイラルに陥る危険度が高まります。 ならばいっそ首相は大叔父でもある佐藤元首相のいう「解散をするほど上がる」を選択するかもしれません。解散の流れが生じれば議員も公認してほしいので首相には逆らわないし、勝利すれば「民意を得た」と過去をチャラにできそうです。幸いにも野党第1党の民進党の支持が伸び悩んでいて代表が辞任する体たらく。改造で多少支持率を上げて勢いをつけたまま秋にでも解散・総選挙になだれ込めば、今の議席維持は無理でも過半数以上は悠々いけると早くも皮算用している人もいるのです。 しかし、そううまく行くでしょうか。解散による求心力は何も与党だけに働くわけではありません。東京都議選も投開票日の2週間前ぐらいは「自民はそれほど負けない」という観測が支配的でした。いずれにせよ解散となれば歓迎する国民は多いのではないでしょうか。首相を支持するにせよ、しないにせよ主権者の意思を示せるのですから。
----------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など