「どうして勉強しなきゃいけないの?」~2人の“女王”とお受験にみる「学ぶ理由」【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
■人は何のために学ぶのか?
モレッティ教授は授業の意義を、こう語った。「AIが台頭し、こうした文字をAIがある程度、判読できるようになっても、人間には『自分で読みたい』という欲求があるんです。その『好奇心』や『探究心』がある限り、人間の進化は止まらない。私は人間として、次の人間に何かを託していきたいんです」 終了後は、各国から来た参加者が思い思いにドレスアップしてディナーの席に集まった。食前の祈りはラテン語でささげられる。仏教徒もイスラム教徒も、誰もがしばし目を閉じた。祈りを終えると、誰もが笑顔でグラスを合わせる。人種や国籍の違いを超え、境遇を超え、ただ「好奇心と探究心」という共通のもので結ばれた人たち。学ぶ、ということの本質を見た気がした。
指導教授のモレッティ先生は、イタリアからケンブリッジに来て日本の近世文学を研究している。隣の名誉教授に、多くの候補者の中からモレッティ先生を採用した理由をたずねると、教授はこう笑いながら答えた。 「採用の際の模擬授業でね、僕はわざと間違えて見せたんだよ。『古文の“いぬ”は否定だ』ってね。そうしたら彼女、血相を変えて、『否定じゃありません! “いぬ”は、立ち去る、とか、行ってしまった、という意味です。これは大事なところですよ!!』って必死で説明するんだよ。いいなあ、と思ってね。生徒の『学びたい』って気持ちに火をつけるには、教師はそれぐらい熱血じゃないとね」 ドラマ『女王の教室』第10話で、小学校6年生の女子生徒が“女王”たる教師にこう尋ねる。「この前、先生は言いましたよね、『いくら勉強して良い大学や良い会社に入ったって、そんなの何の意味もない』って。じゃあ、どうして勉強しなきゃいけないんですか?」 すると、彼女はこう答えるのである。「いいかげん、目覚めなさい。まだそんなことも分からないの? 勉強は“しなきゃいけないもの”じゃありません。“したいと思うもの”です。これから、あなたたちは知らないものや理解できないものにたくさん出会います。美しいな、とか、楽しいな、とか、不思議だな、と思うものにたくさん出会います。そのとき、もっともっとそのことを知りたい、勉強したい、と自然に思うから人間なんです。好奇心や探究心のない人間は人間じゃありません」 日本とイギリス、2人の“女王”にみる学ぶことの本質。「好奇心」と「探究心」、誰かの扇動に惑わされない強い若者を育むには、どうやらこの2つがキーワードになりそうだ。 ◇◇◇
■筆者プロフィル
鈴木あづさ NNNロンドン支局長。警視庁や皇室などを取材し、社会部デスクを経て中国特派員、国際部デスク。ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、系列の新聞社で編集委員をつとめ、経済部デスク、報道番組「深層NEWS」の金曜キャスターを経て現職。「水野梓」のペンネームで作家としても活動中。最新作は「金融破綻列島」。