「どうして勉強しなきゃいけないの?」~2人の“女王”とお受験にみる「学ぶ理由」【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
ヨーロッパも同じだ。EU(ヨーロッパ連合)はそもそも特権階級のエリートと思われているから、不満のはけ口になりやすい。「EUが移民を増やしたから、こっちの生活が脅かされているんだ!」とポピュリズム政党が移民排斥を訴えて台頭し、多くの人が無意識に抱えている不公平感や不平不満というものを巧みに利用した。それが今回の暴動の根っこにある、ぬぐいようのない報われない労働者たちのルサンチマンのような気がするのだ。いま、気候が良くなったロンドンでは、カラフルなサマードレスに身を包んだ人々の陰で、かつてないほど路上生活者があふれ返っている。
■まさかの“お受験”に右往左往
イギリスに来たばかりの頃、もっとも驚いたこととして「ホームレスの多さ」と作文に書いていた息子は、現在12歳、日本では小学6年生である。「イギリスにいる限り塾とは無縁」とほくそえんでいた息子を襲ったのが、まぎれもない「お受験」であった。シングルマザーという特性上、息子は寮付きの学校に入れられている。「Prep Boarding」という種別で、12歳が最終学年のため、13歳になったら次の学校に進まなければならない。そこで訪れたのが「受験」である。息子は“もう時すでに遅し”、共通一次にあたるISEBなる共通試験がすでに終わっていて選択の余地がなかったため、小学校が指定した学校を受けるしかない。 むしろ楽で良かった…などとのんびりしていたら、ある日、学校から「先生方が研修で出払っていて息子さんを連れて行けないので、お母さん、受験当日の引率をお願いします」と厳命された。あわてふためくも仕方がない。ハラを決めて現地に赴く。こちらのボーディングスクールでは「ハウス」といわれる寮ごとに面接と試験が行われる仕組みで、親は息子の順番がくるまで応接間で待たされる。 ガチガチに固まっているわれわれ親子を尻目に、みなさんは出されたクッキーと紅茶を片手に「ハウス」の先生方と楽しそうに雑談している。私も仕方なく、隣に座った先生と会話することに…。白シャツが似合う若い男性教師に何を聞いて良いのかわからず、「ここのお仕事は楽しいですか?」などとお門違いな質問を繰り出してしまった。彼は嫌な顔ひとつせず、「僕はここに来る前、問題児を更生させる仕事をしていたんです。まず彼らは大人を信じない。何度会っても、心を開かない。だから、ここの子たちはみんな素直すぎて怖いくらいですよ」と言った。 「大人を信じない子どもたちと、どう向き合うんですか?」と聞くと、「一に忍耐、二に忍耐、あとは『好奇心』…かな。“この人、ちょっと面白そう”って思ってもらうために、僕はマジックのワザを覚えました」と真っ白な歯を見せて笑った。そこから、イギリスの少年犯罪やシチズンシップ教育について話が盛り上がっているうちに、息子は名前を呼ばれて他の少年たちと出て行った。 約3時間後、学校に戻って息子の試験内容を聞くと、ハウス長との面談で、彼は「将来、何になりたいか?」と聞かれ、「首相になってホームレスをなくしたい」と答えたのだそうだ。 ハウス長はおもむろに「それはとても良い夢だ」と答え、そのためには絶対に「歴史、哲学、文学、ディベート、それから様々な人の話を聞くこと」が必要だ、と説いたのだそうだ。中でも一番大切なのは、人の話を聞くことだ、と。「できるだけ様々な人の意見に耳を傾けなさい。そうすれば『探究心』が生まれる。それが人を成長させる最も大切なものだ」ということを、とくとくと話してくれたらしい。 「好奇心」と「探究心」という2つの言葉を聞いて、最近、取材したある授業を思い出した。