最大の不安は「引退後の仕事」。大学生になった金メダリスト髙木菜那がリスキリングで描く「まだ見えない」夢の先
知識のなさを痛感。「このまま生きていけるとも思っていない」
――アスリートにとって、なぜリスキリングが必要か。その重要性をどう考えていますか? 「引退してから学び直しても、遅くはないと思うんですよね。例えば、私はまだオリンピックでの金があったから、メディアなどからお仕事をいただけている。その中で学習していけばいい。でも、本当の軸の仕事は定まっていなくて、このまま生きていけるとも思っていないんです。だから、『知識のなさ』を痛感したんです。 社会を知らない、日本を知らない、世界を知らない。スケートの世界でずっと生きてきたけど、外の世界の多くの人がどんな働きをして、どんな人がトップにいるのか、知らないことが多すぎた。先に知っておけば現役時代に生かせたこと、スケートに生かせたこともあったと思う。いろんな人とつながりも築けたはず。そういったことをカバーするための、リスキリングでもあると思っています」 ――自分がもっと早く外の世界を知っていれば、競技に生かせたかもしれない、と。 「リスキルとかセカンドキャリアっていうと、アスリートは一歩下がってしまうところがある。でも、自分が競技で結果を出すためにも生きて、それがセカンドキャリアにもつながるなら、私はすごく興味があるし、やってみたい。アスリート時代からそういう視点を持てれば、よりいいなと思ったのが、今回のイベントを行うきっかけになりました」 ――強かったアスリートほど、セカンドキャリアに苦戦する場合もあります。やはり、目標設定は難しいものですか? 「アスリートの良いところでもあり、デメリットでもあるのは、自分の命を懸けてスポーツをやってきたからこそ、セカンドキャリアでも同じぐらい頑張れるものを探してしまうんです。でも、そうは見つからない。すると、『手を出すのやめよう』と考えてしまう。色々やってみようと思う人はまず実行するけど、悩む人はそこだと思う。 例えばヘアメイクに興味はあるけど、プロになるなら美容学校に行くか選択して、その後師匠のもとで3~4年修行して……とか考えると、『いや、ないな』ってなる。周りからは『やりたいな』で踏み出せばいいと言われるけど、それができないのがデメリットだと思います」 ――結果を残したからこそピボット(方向転換)するのが難しい。いわゆるプライドが邪魔する、新しいことに挑戦するのが怖い、みたいな心情もありますか? 「あります、あります。自分もそれは、まだ乗り越えられていない。まだまだ、一歩も踏み出せていないものがたくさんあります。でも、踏み出さないと見つからないことも、たくさんあると思う。だから、踏み出せるものは踏み出していこうかなって思ってます」