「“隠れる”ことでうまく生きる」古内一絵×平埜生成『東京ハイダウェイ』
「マカン・マラン」シリーズをはじめ、読者の心に温かく寄り添う作品を数多く生み出してきた古内一絵さん。 【関連書籍】『東京ハイダウェイ』
「マカン・マラン」シリーズをはじめ、読者の心に温かく寄り添う作品を数多く生み出してきた古内一絵さん。 最新刊の『東京ハイダウェイ』は、職場や家庭、学校など、ストレスフルな現代社会で生きる人々が、自分だけのハイダウェイ(隠れ家) にめぐりあう物語。 今回は、古内作品のファンだという俳優の平埜生成さんをお迎えし、今作の着想のきっかけとなったプラネタリウムでお話を伺いました。 聞き手・構成/小元佳津江 撮影/藤澤由加 ヘアメイク/榛沢麻衣(古内)、廣滝あきら (平埜) スタイリスト/渡辺慎也 (Koa Hole inc.) (平埜) 取材協力/港区立みなと科学館 平埜:ジャケット ¥66,000/シャツ ¥33,000/パンツ ¥35,200 (semoh/税込価格) お問い合わせ:Bureau Ueyama TEL:03-6451-0705
本屋さんが繫いだ不思議な出会い
――平埜さんは、古内さんの『山亭ミアキス』が文庫化された際に解説を書かれていますが、お二人はその前から交流があったそうですね。 平埜 そうなんです。僕が最初に読んだ古内さんの作品は『風の向こうへ駆け抜けろ』という競馬小説でした。手に取ったきっかけははっきりと覚えていないんですが、すぐに続編も読んですっかりはまってしまったんです。そこから『フラダン』を経て、「マカン・マラン」シリーズに入って……。 古内 え、そんなに読んでいただいていたんですね! 平埜 はい。そのあとが『鐘を鳴らす子供たち』でした。僕が井上ひさしさん脚本の『私はだれでしょう』という舞台に出演したときに、役作りのために時代背景が同じこの作品を読んだんです。そしたらあまりにもいろいろなことがリンクしていて。これはもうファンレターを書こうかと思って、迷いながらも古内さんのSNSを見つけ出し、思いきってDMをお送りしたんです。それが、コンタクトを取らせてもらったきっかけでした。 古内 確かにDMをいただいたんですが、その前から私の作品をこんなにたくさん読んでくださっていたことは知らなかったので、すごくびっくり。嬉しいです。『私はだれでしょう』にお誘いいただいて、それから平埜さんの舞台を拝見するようになったんです。先日主演を務めていらっしゃった舞台『兵卒タナカ』も素晴らしかったです。パンフレットに、平埜さんは週に二冊くらい本を読むと書いてありましたよね。でも、大人になるまで読書をしたことがなかったともありました。本を読まれるようになったきっかけは何だったんでしょうか? 平埜 僕、もともと本が嫌いだったんですよ。両親がかなりの読書家で、父からはずっと「本を読め」と言われて育ったので嫌になっちゃって、ずっと漫画に逃げてきました(笑)。古内さんは、盛岡にあるさわや書店さんってご存じですか。 古内 もちろん知っていますよ。 平埜 さわや書店さんに伺ったとき、店内に掲げられた手作りのポップが本当にすごくて、本を売る人の圧倒的な熱量に感動したんです。書店員さんイチオシの本に添えられたポップには「無料で貸してでもいいから読んでほしい」とあって、そんなに言うならと読んでみたらすっかりのめり込んじゃって、それから読書が習慣になりました。まさにヘレン・ケラーにとっての水みたいな、そのくらいパーンと世界が開けた感じがありました。 古内 ……びっくり。実は、私もさわや書店さんに発見してもらった作家なんです。 平埜 え、そうなんですか? 古内 私、デビュー当初は本が全然売れなくて。一から出直すような気持ちで『風の向こうへ駆け抜けろ』を書いたんです。それを大々的に取り上げてくださった書店さんの一つがさわや書店さんでした。 平埜 すごっ! 鳥肌が立ちました。 古内 そのとき、全国の書店さんを回らせてもらったんですが、さわや書店さんがものすごく大きなポップを作ってくださって。 平埜 じゃあ僕、もしかしたらそれを見て買ったのかな。 古内 そうかも。すごい……。当時の書店員さんはもういらっしゃらないそうなんですが、やっぱり本屋さんって出会いを与えてくれる場所なんですね。だから私はいつも自分のことを、本屋さんが育ててくれた作家だと思っているんです。