《パラグアイ》パラグアイ唯一の和牛農場訪ねて=「カバーニャH」林英二郎さん≪4≫=南米で唯一和牛ビジネスを軌道に
パラグアイ産ビーフの中で希少な和牛
2023年9月に米国農務省(USDA)が発表した「パラグアイに関する家畜および製品年次報告」によると、パラグアイの2023年初頭の牛の飼育頭数は1350万頭で、前年より10万頭減少した。 これは2022年後半まで3年間続いた干ばつの影響だったが、林さんの和牛農場はグアラニー水層と呼ばれる地下水の豊富な土地にあり、地下100mから水をくみ上げているため干ばつの影響を全く受けなかった。その水質は「世界最高の天然ミネラルウォーター」と国際的に認定されたパラグアイ産ミネラルウォーター会社ゴン・ワナ(Gond Wana)が拠点を置いているほどである。 パラグアイで飼育される牛の大半は、ブラジルと同様にグラスフェッド(牧草を食べて生育)が多く、天候に左右されやすい。近年、パラグアイでは約50万頭がグレインフェッド(穀物を食べて生育)であると報告されている。パラグアイは大豆とトウモロコシの大規模な生産国および輸出国であるため、地元の牛生産向けの飼料供給も豊富である。 しかし、飼料となるパラグアイ産の穀物価格はブラジルの収穫量により左右され、ブラジルが不作の時は輸出が増えるためパラグアイでの価格も値上がりし、決して生産コストは安定的とはいえない。 林さんは「パラグアイで和牛生産が広がるのは考えにくい。和牛との交配種をつくることはできても、純粋種を育てるのは難しい。最高の和牛に育つには飼料が重要だが、一般に市場に出すまでその生産コストに持ちこたえられない」という。 南米各国で和牛は生産されているが、生産から販売まで和牛による独自のビジネスモデルを築き、それを軌道に乗せた点でも南米唯一ともいわれる農場である。
牛飼いの夢を南米で初志貫徹
ブラジルや南米からの食肉・水産物などの輸出コンサルタントを手掛け、ブラジルで和牛販売にも携わったことのあるブラジルフードサービス社の小寺健一社長(67、北海道出身)は「林さんの和牛は、日本本国で生産される和牛と同等レベルの品質」と太鼓判を押す。日本での等級分けでは12段階中8段階(5段階分けの場合は5段階)、米国やオーストラリアの牛肉の等級では最高ランクに位置する。 一般にパラグアイ人はブラジル人と同様に牛肉は脂身の少ない赤身を食べ慣れている。そのため、林さんも和牛にサシを入れ過ぎず、とろけるよりは肉感が出るように育てている。 「最初は和牛と言っても意味さえ通じず、酔っ払いが来て何の肉かと聞くので、『ワンワンの肉だ』と言って驚かせて追い返した」と苦労のエピソードは尽きない。 だが、今ではブレイクした和牛の串焼きによって知名度は上がり、「『デリシアス・ハポネサス』の串焼きしか食べたくない」と言う子供もいるほどだという。 林さんは「一時は子どもたちの学費をどうやって捻出したかと思う時期もあったが、とりあえず食べてこられたので和牛農場を続けることができた」と振り返り、13歳の時に決めた牛飼いになる夢を南米の大地で初志貫徹している。農場の小屋を飾る馬の蹄鉄で手作りしたほんわかした「WAGYU」の文字が温かい。(取材=大浦智子、終)