いじめとも関連「スクールカースト」はなくせるか 「学校適応感」や「学校享受感」との関連も大きい
スクールカーストの地位が「学校の楽しさと」強く関係
いじめの認知件数や重大事態件数が増える中、文部科学省は不登校対策「COCOLOプラン」において学校の風土や心理的安全性の重要性を強調している。しかし、学級経営は簡単なものではなく、児童生徒同士の人間関係の調整に悩む教員も少なくない。そこで今回、いじめや学校適応などの生徒指導を研究する北海道教育大学旭川校准教授の水野君平氏に、「スクールカースト」の観点から学級経営や指導についてアドバイスをもらった。 【グラフ】スクールカーストの意識は学級によってこんなにも違う 文部科学省の「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、いじめの認知件数・重大事態件数が過去最多を更新した。いじめの背景はさまざまだが、以前から「スクールカースト」は、その要因の1つになっているとの指摘がある。 スクールカーストとは、学級の児童生徒間や集団間で、自然に発生する固定的な序列を指す概念で、インドの階級的な身分制度であるカーストになぞらえて名付けられたといわれている。スクールカーストを心理学的アプローチから研究している北海道教育大学旭川校准教授の水野君平氏は、次のように話す。 「そもそもこの言葉は、2000年代前半にネット上で生まれたようですが、2007年に刊行された教育評論家・森口朗氏の著書『いじめの構造』(新潮新書)を通じて社会的に認知が広がりました。森口氏はスクールカーストを、子どものコミュニケーション能力によって序列が決まり、個人間の序列を表わすものと定義していますが、グループ間の序列を指すこともあり、定義は研究者によってもさまざま。ですが、共通して、学校や学級の中で上下関係のような地位の差が生まれることを意味します」 水野氏がスクールカーストについて研究し始めたのは2013~2014年頃。大学の卒業論文のテーマを考えている際、鈴木翔氏の著書『教室内カースト』(光文社新書、解説:本田由紀)と出合ったことがきっかけになった。自身も高校時代、学級内で上下関係のような空気を強く感じていたこともあり、その原因について研究したいと思うようになったという。 「教室で子どもたちの上下関係を感じる経験をしたとおっしゃる先生方は多く、皆さんもその実態には触れていらっしゃるはず」と、水野氏。例えば、心理学には、「ビッグファイブ」と呼ばれる性格特性(協調性・外向性・勤勉性・神経症傾向・開放性)があるが、この性格特性と中学生のグループの主観的地位との関係を調べてみると、次のようなことがわかったという。 「自分がいるグループの地位は高いと認識している生徒ほど外向性が顕著に高く、協調性と開放性も高い傾向が示されました。また、そうした認識の生徒ほど、所属する学級について、客観的にどのような状態にあるかは関係なく『自己開示がしやすい』『仲がよい』と肯定的に見ています。対して自分のグループは地位が低いと認識している生徒は、逆の性格特性を持ち、学級の捉え方も否定的な傾向があります。そのほか私の研究では、上位グループの生徒ほど学級適応感や学校享受感が高いことが確認されており、スクールカーストの地位が学校生活の楽しさと強く関係していることが示唆されています」