いじめとも関連「スクールカースト」はなくせるか 「学校適応感」や「学校享受感」との関連も大きい
「いじめ」との関連や「授業のパフォーマンス」への影響も
こうした傾向は、教員であれば日々の指導の中で実感する部分があるかもしれない。さらに水野氏は、近年のさまざまな研究から、スクールカーストがいじめの問題や授業におけるパフォーマンスとも関連があることがわかってきていると話す。 「私たちの調査では、自分のグループの地位が低いと思っている生徒ほど、いじめ被害を受けやすく、いじめの解決もしにくい傾向にあることがわかりました。また、高知大学大学院の亀山晃和さんらの研究(2021年)では、理科授業での班活動において学級内の地位が低い生徒ほど心理的安全性が低くなりやすく、批判的な議論もしにくいことが示されています」 スクールカーストは必ずしも上・中・下というようにグループが明確に分かれて存在するのではなく、「地位の差が生まれる度合いは学校や学級によって異なる」と水野氏は指摘する。 以下は水野氏が、中学生に自分のグループの地位の高低を1点~5点で自己評定してもらい、学級ごとに「グループ間の主観的地位の標準偏差」を算出したものだ。 「左のグラフを見ると、『自分のグループは普通』と捉えている生徒が多く、スクールカーストが生徒たちの間であまり意識されていない学級であるといえます。しかし右のグラフでは、主観的地位がばらけており、スクールカーストが明確に意識されている学級であることが見て取れます。また、後者のほうが、主観的な地位と学校での充実感との相関が強く出ました。つまり、学級や学校のスクールカーストの程度によって、学校の楽しさが左右される可能性が考えられます」
下位グループの子どもたちにもどれだけ丁寧に関われるか
では、こうしたスクールカーストの影響を踏まえ、教員はどのような学級経営を心がけるとよいのだろうか。 「小・中学校は、所属する学級のメンバーと授業や給食、修学旅行を共にしなければならず、自分の希望で学級を変えることはできません。もっと言うと、大人の都合で学級に閉じ込められており、上下関係が存在するとそこから逃げられない状況にあります。ならばスクールカーストをなくすために学級をなくしてしまうのも1つの考え方ですが、現実的には上下関係ができるのは仕方がないことを前提に、問題が起きないようにすることが大切だと思います」 つまり、友達との関係性にかかわらず、子どもたちがいじめられることなく、学校を楽しいと思い、授業で自由に発言ができるようにすること。そのカギの1つは、教員の指導や働きかけにあるのではないかと水野氏は話す。 「学校が楽しかったからこそ先生になった方も多いと思いますが、先生方が下位グループの子どもたちにもどれだけ丁寧に関わっていくことができるかが重要であるように思います。子どもたちに快活さや明るさを一律に求めず、分け隔てなくそれぞれの強みを生かすような学級経営に努めることが大事ではないでしょうか」 今の時代はICTも活用することで、そうした学級経営や授業ができるのではないかと水野氏は言う。例えば、1人1台のタブレット端末を活用し、みんなの意見を匿名化した形で共有すれば、いい意見を持っているのにもかかわらず学級の雰囲気を気にして発言することができなかった子も意見表明がしやすくなるかもしれない。 「そのように意見が言いやすい環境は、スクールカーストの地位に関係なく学級全員にとって心理的安全性が高く、学級全体の雰囲気を変えていくことにつながるのではないかと思います。また、異年齢学級も、年齢の差があるぶん、役割が明確になりやすく、実はスクールカーストで起きるような問題が起こりにくいかもしれません。スクールカーストをなくすことは難しいですが、地位の差の意識を薄くしていく方法はきっとあるはずだと考えています」 (文:國貞文隆、注記のない写真:168owl/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部