自然派ワイン最前線 「Raw Wine」創業者が寄せるアジア市場への期待
アジアが鍵を握る、自然派ワインの未来
続いて訪れたのは、フランス・ボジョレー地方のドメーヌ・ヴィオネ(Domaine Vionnet)。ボジョレーは、解禁日の祝賀とともに世界的に流通するボジョレーヌーボーの産地だが、ワインの大量生産と輸出の成功を支えてきたのは、低価格化と味の均一化のために加工され、工業化されたプロセスだ。こうした過度の商業化と環境破壊の問題を危惧し、1980年代に地域で自然派ワイン運動が動き出した。 ドメーヌ・ヴィオネのワインメーカーのカリム・ヴィオネ(Karim Vionnet)は、ギィ・ブルトン(Guy Breton)やマルセル・ラピエール(Marcel Lapierre)のもとでワイン作りを学んだ。ブルトンとラピエールは、ジャン・フォイヤール(Jean Foillard)、ジャン・ポ ール・テヴネ (Jean-Paul Thevenet)は「ギャング・オブ・フォー(4人組)」として知られる自然派ワインの先駆者たちである。 2006年に自身のドメーヌを立ち上げたヴィオネ。ボジョレー地方の自然派ワインの教えを継承した「シンプルでナチュラル」なワインづくりを追求する。ボジョレーヌーボーの黒ブドウ品種であるガメイを使った赤ワインが中心。 彼のワインの一つには、アラブ系フランス人としてのルーツに対するウィットが込められた「(安い)ワインの中に入ったアラブ人(Du Beur dans les Pinards)」という名前が付けられている。これは、ありきたりなものを改善するというニュアンスを持つ「ほうれん草の中のバター(du beurre dans les épinards)」というフランス語の表現に由来する。ヴィオネの謙虚な人柄の背後に、ワイン作りに対しての自信を垣間見ることができる。 3つ目、ブルゴーニュ地方の「クロ・デュ・ムーラン・オー・モワーヌ(Clos du Moulin aux Moines)」はリバイバルを遂げたワイナリー。そのルーツは修道院によって運営されていた10世紀(962年)にまで遡る。一時期、衰退しかけたこともあったが、2008年ごろから有機農法、バイオディナミックを実践するワイナリーへと変革を進め、エコサート認証(有機)とデメター認証(バイオダイナミック農法)を取得した。 ◾️アジアが鍵を握る、自然派ワインの未来 12年間、欧米市場を中心に自然派ワイン市場の拡大に注力してきたレジェロンに、これからの展望について聞いた。「未来の可能性の多くはアジアにあると考えています。日本はもちろんのこと、上海はじめ深圳、北京などの中国各都市、韓国や台湾にも興味があります」。生産量は限られているものの、生産者は自分のワインを世界各地に展開したいという想いを持っているという。 ワインの世界最大市場である米国の次期トランプ政権が実施すると公言している輸入関税に対する懸念もあるなか、生産者にとって中国市場は今後特に重要になるだろうとみる。「成熟市場である日本に比べて、中国はまだこれから。次世代の若者に自然派ワインと有機農業について教育することで、地球環境を改善できる可能性があると考えています」。 レジェロンにとっての自然派ワインの普及活動は、アクティビズムでもあるのだ。「地球と生物多様性を守りたい。私にとっての自然派ワインは、今までのやり方を変え、飲み方を変え、飲む量を減らすといった教育を進めるための手段なのです」。
MAKI NAKATA