小惑星「カリクロー」に環があるのは羊飼い衛星のおかげ? シミュレーション研究
一方で、カリクローが持つような細い環は巨大惑星にも見られます。そのような細い環の維持には「羊飼い衛星」の関与が良く知られています。ロシュ限界の中でも惑星から遠い場所の環は粒子同士の距離が広がって拡散し、やがて薄くなりすぎて見えなくなってしまいます。しかし、環のすぐ内側や外側を公転する小さな衛星が存在する場合、衛星の重力が環の粒子の運動方向を変えて外に逃げ出さないようにします。その様子をヒツジが逃げ出さないように見張っている羊飼いのように例えて、このような衛星を羊飼い衛星と呼んでいます。羊飼い衛星は小さいため、ロシュ限界の中にあってもバラバラにならず存在します。 カリクローの細い環の維持が羊飼い衛星による影響であると考えるのは、実例を考えると合理的です。ただし、カリクロー周辺の環境は巨大惑星周辺とは全く異なります。また、どれくらいの大きさの羊飼い衛星があればいいのか、その個数はいくつかなど、環が安定して存在するための条件はほとんど分かっていません。
■直径約3kmの衛星が環の安定化に寄与?
惑星科学研究所のAmanda A. Sickafoose氏とトリニティ大学のMark C. Lewis氏の研究チームは、多体問題をシミュレーションすることでこの疑問の解決を試みました。これは多数の天体がお互いに及ぼし合う重力の影響を数学的に解く手法ですが、 “簡単に解く” 方法が存在せず、計算能力の高いコンピューターを使わなければ解析ができないことで知られています。両氏は、この困難な問題に取り組みました。 その結果、両氏は羊飼い衛星の存在がカリクローの環の維持を最も良く説明できることを明らかにしました。衛星を持たない場合、カリクローの環はもっと薄くて幅広いはずであり、これは観測結果と合いません。一方で、衛星のサイズがあまりに大きいと環が細くなりすぎてしまうため、実際には観測できなくなってしまうでしょう。 Sickafoose氏とLewis氏は、質量が300億トンの衛星が1つだけ存在し、環との軌道共鳴状態 (※2) にあったとすれば、観測結果と一致する細い環が安定して存在することを突き止めました。衛星の推定直径は約3kmと小さいため、現在の観測技術では発見されないでしょう。 ※2…この場合は環の公転周期と衛星の公転周期が簡単な整数比になることを指します。今回のシミュレーションでは、環と衛星の公転周期が整数比にならない場合、衛星が存在しても環が薄くなってしまうことが分かっています。 興味深いことに、今回のシミュレーション結果によれば、カリクローの環は既に発見されている2本に加えてより薄い環がもう1本ある可能性が示されました。しかもその位置はロシュ限界の外側になると考えられています。ロシュ限界の外側では環は一塊の衛星となってしまい、安定して存在しないはずであるため、もしもカリクローに外側の環が見つかれば羊飼い衛星が存在することの間接的な証拠となるかもしれません。 また、2023年には50000番小惑星の「クワオアー」にも環が発見されましたが、この環はロシュ限界の外側で発見された初の環でもあります。クワオアーには衛星「ウェイウォット」があり、ロシュ限界の外側に環があるのは衛星の影響だとする説もあります。今回のシミュレーション研究は環を持つ他の天体にも影響するかもしれません。