【詳説】きらぼしFG「オープンイノベーション」、有力企業との連携が加速「提案ピッチ」とは?
金融機関とスタートアップ双方に「価値あるイベント」とは
スタートアップを対象としたピッチイベントは近年数多く開催されており、その目的も新しいビジネスアイデアの発掘、起業家の支援、投資候補や業務提携先の選定、イノベーションへの取り組みのアピール、採用活動の一環、など多岐にわたっている。 ただし、その目的が明確になっていない場合には、ピッチの内容も焦点のぼけた内容になってしまう恐れがある。そういう点で、きらぼしグループによる今回のピッチイベントは、「中期経営計画の役立つ提案」という明確なテーマ設定がされ、FINOLABというフィンテックコミュニティに参加しているメンバーを募集の対象としたことによって、期待した水準に達する内容になったものと評価できる。 応募したスタートアップにとっても、協業をゴールに設定しつつ、内容の絞り込みを行うことができたものと考えられる。 とはいえ、「中期経営計画」の範囲も広いことからどこに力点をおくかによって提案内容に差が出た感もある。「業務分野」「商品・サービス」「対象顧客層」といった要素のどこに重点を置くかによって、提案各社がいずれも触れている「デジタル」といったキーワードの展開も変わってくるということもみえた。 さらには、こうしたイベントの開催により、スタートアップとの新しい接点が生まれるとともに、参加した役職員が刺激を受けて、今後の業務展開においても新しい発想につながることも期待される。
イベント「やっただけ」で終わらないために
全体的に相応の熱量を生み出すことができた今回の提案イベントであるが、今後につなげていくためには、提案内容をどのように生かして業務に取り込んでいくかが重要となる。 多くの金融機関でのスタートアップ協業案件を進める際には意思決定のスピードの違いに戸惑うケースが多く、プロジェクトが頓挫してしまうことも少なくない。 商品やサービスの実現といった目標の設定もさることながら、検討プロセスを明確にしつつ、スタートアップとの協業に関する経験値を蓄積していくことも重要である。 また、過去のさまざまなピッチイベントの例からも、こうした取り組みを通じて1回で結果を出すことは容易ではない。 「ピッチを含めてスタートアップとの接点をどのように作るのか」「協業に向けどのようにフォローアップするか」「業務展開につなげる出口戦略をどのように持つか」などを試行錯誤の中で進めていくことになる。そのために失敗を許容することも大切であるが、それ以上に失敗から学ぶことが必要となる。 デジタルトランスフォーメーションを進めるために、多くの金融機関がオープンイノベーションに取り組むようになっている。APIなどのシステム的なインフラ整備とともに、スタートアップを含めて外部パートナーとの協力体制をスムーズに構築することが必須になる。その入口として提案ピッチを開催するケースも増えることが予想される。
執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠