発達障害、不登校から高校合格、成績上位で大学進学。「逆転」を実現させた母の言葉
見事高校合格!したが…
自分で目標を掲げ自走する子どもは強い。ケンタ君は希望校に見事合格した。 もともと野球好きの母は喜び勇んでバット、グローブ、シューズと道具をプレゼント。もらった本人も「野球、頑張るわ」と言って入部した。それなのに、体験に行って帰宅すると「やっぱり野球部入らへん」と言う。息子が思い描いていた雰囲気とは違ったようだった。 「野球も頑張らなあかん、勉強も頑張らなあかんってなったら、ボクまた学校行けへんような気がする」 打ち明けられたアツコさんは目が点に。 (あんた……野球部入るために高校受験頑張ったんちゃうんか?) 言いたかった言葉をぐっと飲み込んだ。 落ち着いてよく考えれば、息子は「見通しをつける」ことができるようになった。ここで池添さんから授かった学びを活かさないでどうする。 「うん、わかった」 この言葉がすっと出てきた。 「本当はすごい悲しかったです。野球やってほしい!って思いましたよ。でも、やるのは息子やし、決めるのは息子やし。そう考えて、こらえました」
指定校推薦ですんなり大学進学
にしても部活動もせずに高校時代は大丈夫だろうか?そんな母の心配をよそに、ケンタ君は毎学期クラスで2、3番の成績を取ってきた。自信をつけたのか成績はうなぎのぼりで、ついには学校の指定校推薦ですんなり大学進学を決めた。 発達障害、不登校から、高校受験合格。クラス上位の成績を持続させての大学進学。息子の逆転人生を呼び込んだのは、池添さんから学びを得たアツコさんであることは紛れもない。この母子の成長にかかわった池添さんは「息子さんは頑張り屋さんやったね。ただ頑張り方がわからなくてうまくいかなかっただけ。大きな確信があったわけじゃないけれど、自分で動き出すまで待とうとお母さんには伝えました」と振り返る。 ――子どもが学校に行けないのは、自分の中にエネルギーが無くなってるから。エネルギーが満タンになるまで待ってあげれば、自ら動き始める―― これが不登校に寄り添う原則だと池添さんは言う。気持ちを受け止め尊重すれば、子どもは自分を肯定することで少しずつエネルギーを貯めていく。 「それなのに、小さいときから『こうしたほうがいいよ』と度々言ってしまいます。これを続けた親御さんは、子どもが大きくなるにつれ『こうしたほうがいいのに』という不安が大きくなってしまって『大丈夫。放っといたらなるようになるわ』っていうふうになかなか思えません」 例えば、子どもが昼夜逆転した生活になった親には「大丈夫。好きなように過ごさせてあげていれば、エネルギーをチャージして戻ってくるよ」と伝える。ところが、相談に来る保護者には「夜はちゃんと寝てます」「宿題もやらせています」「親としての役目を果たしています」と言う人が多い。 「生活リズムはちゃんとしましょう、朝はちゃんと起きましょうと言われてきたんだと思います。でも、それができないから不登校になっているわけで。だから昼夜逆転しても、ゲーム漬けでも大丈夫よっていうメッセージを私は伝えたい」と池添さん。昼夜逆転でもエネルギーが溜まればすっくと立ち上がって学校に行き始める子どもをたくさん見てきたからこそ言えることだ。 ――「うん、わかった」って言って子どもの話を聴いて、初めて親子の話が始まるんです。学校に行きたくないって言ったときも、まず「そっか。行きたくないね。わかったよ」っていうところから始まるのです――
島沢 優子(ジャーナリスト)