トランプ氏が仕掛ける選挙戦術「分断の政治」の危うさ
米大統領選の候補者指名争いで、フロリダ州やオハイオ州など5つの州で予備選挙が行われた「ミニ・スーパーチューズデー」。共和党はトランプ氏がオハイオ州を落としたものの、独走状態が続きます。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏は、人種差別的な言動が目立つトランプ氏の「戦術」に対して危うさを指摘します。渡辺氏の寄稿です。 【写真】“トランプ革命”の始まりか 大統領選が持つ歴史的意義
民主党はクリントン氏の優位変わらず
3月15日のミニ・スーパーチューズデーも終わり、米大統領選に向けた候補指名争いもそろそろゴールが見えてきた。 民主党ではヒラリー・クリントン元国務長官が圧倒的優位にある。 民主党の予備選挙では、得票率に応じて代議員が比例配分されるため、指名獲得に必要な過半数に到達するのは6月になるかもしれない。だが、まさに比例配分制ゆえ、バーニー・サンダース上院議員が逆転するには、残りの州を大差で勝ち続ける必要があり、事実上、不可能と言って良い。 クリントン氏としては、11月の本選を見据え、サンダース氏の支持者(=民主党左派)を敵に回さず、かといってサンダース氏の左派的な主張に出来るだけ引っ張られないことが肝要になってくる。本選では民主党内の一致団結と共和党穏健派の取り込みが欠かせないからだ。
「反トランプ」票が割れる共和党
共和党では実業家ドナルド・トランプ氏の独走状態が続く。 ミニ・スーパーチューズデーで大票田オハイオ州を落としたものの、代議員の過半数を獲得する可能性はまだ残されている。また、同州を制した穏健派(=主流派)のジョン・ケーシック知事が予備選に残り、党内の「反トランプ」票を保守派のテッド・クルーズ上院議員と二分する構図になった点は、トランプ氏にとってあながち悪い話ではない。ケーシック氏なりクルーズ氏なりが代議員数で自分を上回る可能性がほぼ消滅するからだ。 とはいえ、トランプ氏の過半数獲得を阻止すべく、共和党内の幹部は7月の党大会に向けて様々なシナリオを練り始めている。無論、トランプ氏はそうした動きを察知しており、党内のお家騒動はますます熾烈になることが予想される。 もちろん、民主党はトランプ氏が共和党を分裂させること、そしてトランプ氏が候補者指名を獲得することを願っている。そうすれば、11月の本選では、共和党の(保守派は無理だとしても)穏健派の票が取り込め、さらには同時に行われる議会(特に上院)選挙で共和党の多数派を崩せると考えているからだ。 もっとも、私自身、トランプ氏は決して侮れないと考えている。本選に向けて戦術を変えてくるであろうし、クリントン氏や民主党にも弱点が少なくないからだ(その点は後日、筆を改めたい)。