トランプ氏が仕掛ける選挙戦術「分断の政治」の危うさ
背景にある「プア・ホワイト」の怒り
米NPOの南部貧困法律センター(SPLC)が2月に発表した年次報告書によると、米国内で活動する白人至上主義などの憎悪団体数は2014年からの1年間で784から892へと14%も増加している。うちKKK系が190団体を占め、反イスラム系団体数は42%増加している。 同報告書は、その背景として、テロの脅威の増大、警察・司法における人種問題の再燃、2043年には過半数を割るとされる白人人口の減少、同性婚容認の拡大などを挙げている。 もちろん、トランプ氏の支持者がこうした憎悪団体とどこまで関わっているかは分からない。しかし、経済的に困窮し、閉塞感を強く抱く「プア・ホワイト」の一部にこうした団体の過激な主張が響きやすいことは想像に難くない。全米に1100万人いるとされる不法移民全員強制送還。シリア難民の強制送還。イスラム教徒の入国禁止。テロ容疑者への拷問や家族らの殺害容認……トランプ氏の発するこうした過激な主張についても然りだ。 「プア・ホワイト」の怒りや不安を受け止めようする姿勢は何ら間違ってはいない。しかし、彼らの支持を取り逃さないために、粗野で乱暴な言動を容認(黙認も含む)すること、それを政治的に利用することは、米社会にとってあまりにリスクの高いギャンブルと言わざるを得ない。 全米にカジノを有する不動産王のトランプ氏だが、人種問題も単なるトランプ・カードの一枚と考えているのだろうか。 ・アメリカの憎悪団体数の変遷チャート(南部貧困法律センター、SPLC)
--------------------------------- ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など