戦力外通告は「負けなような気がして…」 自ら引退した元巨人・池田駿さんが超難関試験に受かるまでの“7000時間”
野球と違ったうれしさ「指名の時はびっくり、合格の時はホッと」
とはいえ、真剣に勉強するのは一般受験で新潟明訓高へ進んだ時以来。学習法の肝は繰り返しだった。「1回目はサラっと触れて、それを何回も何回もというのが自分のパターンでした」と振り返る。さらに「これは野球にも生きていたと思います」。プロ入りからシーズンを経るごとに、納得できる投球は増えていった。勉強と同じく“繰り返し”の中で自分の長所や弱点に気づき、克服していった。引退を決めたシーズン、2軍で好成績を残せた理由もこれだ。 「現役中より、その後です。きつかったのは」 引退した時に、2年後の2023年に行われる試験で必ず合格しようと決めた。合格率が7パーセントほどという超難関資格で、短答と論文を合わせ6科目(現在は9科目)もある。勉強時間を確保するため、この期間はアルバイトもせず勉強に専念しようと決めた。午前、午後、夜と3時間ずつ、計9時間が基本的なスケジュール。お風呂に入るときもテキストの音声を流していた。 「今思い返すと、2年間で7000時間くらい勉強したことになります。合格談を見ていると、2500~3000時間が多いんですよね。よくやったと思います」。専修大では商学部で、簿記の授業もあった。「あの時もっとやっておけばと思いましたよ」と苦笑いだ。 試験は5月末。11月の合格発表は、東京の財務局に貼り出され行われる。ただ池田さんは地元の新潟で勉強を続けていたため、見に行くことはできなかった。インターネットを通じて確認した瞬間「ドラフトの時と同じような感情の揺れ動きはありました。ただ中身は違いましたね。プロの指名の時はびっくり、合格の時はホッとしました」。人生をかけた選択が、報われた瞬間だった。 「プロは夢がある世界です。でも毎年戦力外通告を受ける選手は出る。選ばれた人の世界である反面、毎年クビになる人もいる。どこかでそう覚悟していたのは、社会人野球までやったからかもしれません。オールド・ルーキーでしたから」 現在、受験生時代に学んだCPA会計学院で講師を務める。これは教師になりたいと思いながら、教職課程を履修できなかった大学時代の夢の延長線上にあるという。今後、会計士登録を行うには、会計事務所などで実務経験を積むことが必要だ。「プロ野球選手のお金やキャリアのサポートができたら。誰でもできることではないので」という夢に向かって、池田さんの挑戦はまだ続いている。
THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori