「単一市場」とは? EUと英国の複雑な関係 坂東太郎のよく分かる時事用語
仏大統領選や独総選挙もEUに影響
1月の演説でメイ首相は、離脱後のEUとは「大胆で野心的な」自由貿易協定(FTA)を結び、離脱すればEUの関税同盟に縛られないので、域外の国ともFTAを結ぶとしています。トランプ大統領との米英首脳会談でも両国のFTA締結の方向で一致しました。世界最大の経済大国たるアメリカとの連携を強めれば、「ハード・ブレグジット」で動揺する外資に安心感を与えられるとともに、それを武器に離脱後のEUとのFTA交渉も有利に進められるとの思惑がありそうです。 ただ離脱プロセスは原則2年以内に完了させなければなりません。この間はイギリス単独の貿易交渉はできないので、イギリス以外のEU加盟国は「FTA云々は離脱が完了してからの話だ」と冷淡。仮に結べたとしても、単一市場のような良い条件はとても引き出せそうもありません。EU域外といってもアメリカ以外のどこでしょうか。「まずはイギリス連邦の国々」として、インドやパキスタンあたりを対象としたとして何が変わるのか。すでに両国からの移民は多くイギリスに住んでいます。その移民が嫌で「ブレグジット」に踏み込んだのだから政策が矛盾してしまいます。 と、まあ「エモーション」による離脱を「エコノミー」の面から分析すればいいことは何もないという推論に到達するのは必然です。しかしまだ分かりません。肝心のイギリス以外のEUが一枚岩でないからです。 フランスでは4月23日に大統領選挙の第1回投票があり、ドイツでも9月に連邦議会選挙が行われます。ともに反EUを掲げる候補や政党が勝利したり勢力を伸ばしたりする可能性があります。イギリスでは総選挙を6月に控えます。主要加盟国でも離脱派が力を伸ばしていて「EU崩壊」を心配する声も高まっている中、仮にそうなってしまったら一転して「イギリスは先見の明があった」と評価される可能性もあります。それが欧州諸国にとって幸福か不幸なのかは別として。
--------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など