「単一市場」とは? EUと英国の複雑な関係 坂東太郎のよく分かる時事用語
欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決めたイギリスで、メイ首相が突然、解散総選挙の意向を発表しました。狙いは選挙によって政権基盤を強化し、離脱交渉を円滑に進めるため。メイ首相はEUの「単一市場」から離れる、いわゆる「ハード・ブレグジット」を掲げていますが、そもそも「単一市場」とは何かなど、EUとイギリスをめぐる歴史を振り返りながら基本的な部分を解きほぐしてみたいと思います。 【写真】EU離脱問う突然の英国総選挙 くすぶり続ける残留論と山積する課題
ヒト・モノ・カネの移動が自由
EU28か国の規模は、名目GDP(域内総生産)が16兆2204億ドル(2015年)でトップのアメリカを追う2番手。人口は約5億人と米国の3億人強を超え、世界1位の中国、2位のインドに次ぐ多さとなります。総面積も429万平方キロメートルと世界7位に食い込み「小さな国ばかり」の印象も払拭されます。 大きな特長は域内のヒト・モノ・カネの移動を自由にする「単一市場」を目指しているという点です。 1999年から単一通貨「ユーロ」を導入。加盟国すべてではありませんが、現在19の加盟国で使用しています。それぞれ別の国家であるにもかかわらず共通の通貨を広汎に使用しているケースは世界でもユーロぐらい。管理する中央銀行は欧州中央銀行(ECB)です。
そして域内の関税はゼロ。域外との貿易交渉はEUが一括して行います。域内の国境を意識せず行き来できる「シェンゲン協定」も大きな魅力です。外国に入る場合、出入国の2回、旅券(パスポート)を示さなければならないのはよく知られていますが、協定参加国同士は国境管理をしないので必要ありません。 この協定にはEU非加盟でも参加している国がある一方で、加盟していても参加していない国もあります。現在はEUを構成する条約内容に取り込まれています。日本なら都道府県境を渡るのと同じような感覚で外国へ入れるし、国際航空路も国内線の扱いとなっています。 これとは別に「リスボン条約」(EU基本条約)も域内の移動の自由を保障しています。企業活動にも開かれています。経済の血液のような役割を担う金融機関は、EU域内いずれかの国で監督当局から免許を取得すれば、別の加盟国でも事業ができる「シングルパスポート・ルール」(単一免許制度)を設けているのです。