悩めるエースの今季リーグ戦初ゴールが劇的決勝弾!「イチフナのあるべき姿」を改めて見つめ直した市立船橋は絶対に諦めない
[9.16 プレミアリーグEAST第14節 大宮U18 1-2 市立船橋高 NACK5スタジアム大宮] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 みんなで考えた。このチームは、どうあるべきかを。このチームで戦う選手は、どうあるべきかを。もちろん結果は大事だけれど、このユニフォームに袖を通すからには、それ以前に絶対やらなくてはいけないことがある。戦う。切り替える。走る。当たり前のことを当たり前にやる。それこそが市立船橋高校が貫いてきたフィロソフィーだ。 「僕たちはシーズンを通して『見ている人たちを感動させる』という目標があって、その中で『応援される選手に、愛されるチームにならないといけないし、正々堂々やることや泥臭く一生懸命やることが人を感動させる』という話をずっとされてきたんです。Jユースと比べたら綺麗に繋いで崩す感じのスタイルではないですけど、走って、戦って、ということができた試合は勝てるのかなと思うので、それはもっと意識して続けていくべきかなと思います」(市立船橋高・岡部タリクカナイ颯斗) 改めて共有したのは『イチフナのあるべき姿』。プレミアリーグEASTでは1つの勝利も挙げられない苦しい前半戦を過ごしてきたものの、夏の全国でベスト8まで勝ち上がると、後半戦に入ってからは既にリーグ3試合で2つの白星を獲得。市立船橋高(千葉)が反撃の狼煙を力強く打ち上げている。 先週のチームは、ダメージの残る敗戦を突き付けられていた。アウェイに乗り込んだ後半戦開幕ゲームの青森山田高(青森)戦でようやく今季のリーグ戦初勝利を飾り、勢いそのままに挑んだホームの鹿島アントラーズユース(茨城)戦。この試合も開始7分でFW伊丹俊元(3年)が幸先よく先制点を挙げたものの、後半に入ると3分間で連続失点を許し、悔しい逆転負けを喫してしまう。 中村健太コーチには試合の内容より気になることがあった。「前回の敗戦は凄く自分たちの弱さが出た試合だと思っています。それは精神的な部分で、相手の挑発だったり、厳しいファウルだったり、そういうところで結局自分たちを見失ったような試合になってしまったなと。先制はしたものの、そのあとはメンタル的な部分での弱さが凄く出てしまって、崩れ落ちてしまったという反省がありましたね」。 「その中で今回のゲームを迎えるに当たって、『相手がどうであろうと「イチフナとしてあるべき姿」をちゃんと見せよう。そうすれば、あとは結果が付いてくるから』という話をして、1週間トレーニングを積んできました」。選手たちは日常から、改めて自分たちのあり方を見つめ直してきた。 第14節で対峙するのは、彼ら同様に残留争いを強いられている大宮アルディージャU18(埼玉)。両者の勝点差は3。11位と12位が激突する、正真正銘の“シックスポインター”。勝利しか許されない重要過ぎるビッグマッチだ。 両チームが慎重に立ち上がった一戦は、15歳のゴラッソがゲームを動かす。前半30分。DF岡部タリクカナイ颯斗(3年)がディフェンスラインの背後にフィードを蹴り込むと、エリアを飛び出した相手GKのクリアはMF高山大世(1年)の目の前へ。躊躇なく右足で蹴り込んだロングシュートが、無人のゴールネットへ鮮やかに吸い込まれる。リーグ初スタメンの1年生が大仕事。市立船橋が1点のリードを奪う。 後半はホームで負けられない大宮U18がアクセルを踏み込むが、「相手にずっと攻められてメッチャキツかったですね」と振り返る岡部にDF篠崎健人(1年)、DF井上千陽(3年)で組んだ3バックに加え、右のMF金子竜也(3年)、左のMF渡部翔太(3年)の両ウイングバックも時には最終ラインまで下がり、5バックも辞さない構えで、1つ1つ相手の攻撃を凌いでいく。 だが、試合はそう簡単に終わらない。39分。金子の横パスをかっさらわれた流れから、大宮U18の10番を背負うMF菊浪涼生(3年)が中央をドリブルで運び、完璧なミドルから同点弾をゲット。最終盤に差し掛かったタイミングで、スコアは振り出しに引き戻された。 金子は市立船橋にとって特別な選手だ。ここまでリーグ戦では全試合に出場し、献身的なプレーで苦しいチームを支え続けてきた。中村コーチは「チームを常に鼓舞してくれる原動力になってくれる選手です」と称賛し、FW久保原心優(3年)も「金子はいつも誰よりも頑張っているので、本当に尊敬できる部分が多いんです」という言葉を口にする。失点は間違いなく痛かったが、この日の選手たちは下を向くことなく、再びファイティングポーズを取り直す。 「試合が始まる前とハーフタイムに伝えたことなんですけど、結局自分たちの力を発揮する時に何が一番大事かというと、仲間のためにやることだと。日中は自分たちの試合だったのに、わざわざここまで駆け付けてくれてスタンドから応援してくれたチームメイトとか、スタンドにも保護者の方、スポンサーの方も来てくださっていて、そういう方々のためにプレーするんだと、走るんだと、表現するんだと。そういうことが絶対に力になるし、そういう力を最大限に発揮できる可能性を高めてくれるという話をしました」(中村コーチ) 45+2分。井上が投げたロングスローの流れから、MF左近作怜(2年)が右クロスを上げ切ると、悩める10番が宙を舞う。「自分はファーで待っていて、クロスはちょっと高かったんですけど、もう決めるしかないという感じでした」(久保原)。懸命のヘディングで枠へ収めたボールは、GKの手を弾いてゴールネットへ到達する。 久保原は苦しんでいた。前節までのリーグ戦で記録した得点数はゼロ。「とにかく決まらないというか、『運が悪いな』とも思っていましたね。チャンスが少ないというのもあったんですけど、『本当に入らないんだな』というのが多くありました」。決定的なフィニッシュがポストやバーを叩いたり、GKのファインセーブに阻まれたのも一度や二度ではなく、時には説明の付かないようなシュートミスも。ゴールの女神にそっぽを向かれ続けていたのだ。 そんなエースが土壇場で叩き出した今シーズン初ゴールは、そのままこの試合の決勝点に。「やっと初ゴールということもあって嬉しかったですし、自分はいつも『何か1つでもチームを助けられることをしよう』と思っているので、今日は自分がチームと金子を助けられて良かったなと思っています」(久保原)。試合後のスタジアムには、劇的な勝利を手にした市立船橋の“勝ちロコ”が轟いた。 「この一戦に負けるか勝つかで大きく違うゲームだったので、そこで3年生が失点に絡んだ中で、3年生が助けてくれたというのは、チームにとっても凄く良い形で終われたかなと思います」。“シックスポインター”を制した試合後。中村コーチは90分間の激闘を総括しながら、改めて『イチフナのあるべき姿』のイメージをこう教えてくれた。 「育成年代とはいえ、やっぱり勝つことですね。いろいろな方が応援してくれていて、いろいろな方がサポートしてくれて、それに対してただ自分たちのサッカーをやればいいということではなくて、やっぱり見ている方たちに勝利を届けると。あとは僕らのミッションでもある『感動を与える』という部分で、イチフナの3原則でもある『球際でしっかり戦うこと』『切り替えを速くやること』『誰よりも走ること』でしっかり表現しようねという部分は凄く伝えました」。 依然としてプレミアの順位は最下位ではあるものの、間違いなく浮上の兆しは見え始めている。もう勝ち続けるしかないチームがここから目指すべき地点を、キャプテンの岡部はこう語ってくれた。 「プレミアに関しては、ここで満足しているようでは絶対に残留できないと思いますし、今の僕たちがプレミアでできているのは先輩たちのおかげなので、今の1,2年生のためにも、毎週毎週練習から細かいことにこだわってやっていかないといけないと思います。あと、選手権に関しては去年を経験している人も何人かいる中で、県予選も簡単ではないですし、全国に出ることや国立に行くことがどれだけ嬉しいことで、どれだけ大変なことかはわかっている分、今のうちから必死にやっておかないと勝てないと思うので、もっと自分がチームを引っ張って、頑張っていきたいと思います」。 見つめ直したのは、自分たちのあるべき姿。諦めない。どんな状況にあったとしても、この看板を背負っている限り、絶対に諦めない。何度も逆境を跳ね返してきた市立船橋の真価が問われるのは、まだまだここからだ。 (取材・文 土屋雅史)
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