【コラム】“絶滅収容所”のチェリスト 50年間の沈黙~ホロコースト生存者が今、ガザの惨劇に思うこと~【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
■ホロコーストの記憶 アニタさんの“怒り”
去年10月、発生直後に取材したイスラエルを思った。とてつもない数の犠牲者を出しながらも、パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を続けるイスラエル。ネタニヤフ首相は「ハマスの残虐行為はホロコースト以来、最も恐ろしいものである」と、「ホロコースト」の言葉を使って攻撃を続ける意思を明確にしている。去年10月7日のハマスの襲撃によって再び呼び覚まされた、恐怖と自衛の本能…。 アニタさんは「ホロコースト」の記憶が、ガザ地区への攻撃を正当化するために使われていることに強い憤りを抱いている。 「愚かで恥ずべきことだ。今、ガザで起きていることを正当化できるものは何もない。ホロコーストとは何の関係もない」 “ホロコーストを二度と許さないために”相手を攻撃することを許容するようになってしまったと話すアニタさん。この歴史の「トラウマ」を乗り越えるために必要なものは何か。
最後に、「イスラエルとパレスチナが平和に共存できる日は来ると思うか」と聞くと、アニタさんは静かにこう答えた。 「コーヒーを飲みに行ったり、サッカーをしたり…一緒に何かをして、互いの違いに興味を持ってほしいのです。違いを大切にして、違いに興味を持つ。みんな同じでは、つまらないでしょう」 「殺し合う前に話し合おう、これが私のアドバイスです」 ◇◇◇
■筆者プロフィール
鈴木あづさ NNNロンドン支局長。警視庁や皇室などを取材し、社会部デスクを経て中国特派員、国際部デスク。ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、系列の新聞社で編集委員をつとめ、経済部デスク、報道番組「深層NEWS」の金曜キャスターを経て現職。「水野梓」のペンネームで作家としても活動中。最新作は「グレイの森」。