【実録 竜戦士たちの10・8】(9)落合博満が宿泊するホテルにひょっこり現れた人物を見て報道陣に緊張走る
◇長期連載「実録 竜戦士たちの10・8」(9)【第1章 FA元年、激動のオフ】 1993年の日本シリーズは6戦を終わって3勝3敗のタイ。第7戦は11月1日、西武球場で行われ、ヤクルトが初回に広沢克己の3ランで先制。西武の反撃を川崎憲次郎、高津臣吾のリレーで退け日本一に輝いた。 沖縄では石川球場、具志川球場に分かれ、中日の秋季キャンプがスタート。ところがウオーミングアップ、キャッチボールが終わると立浪和義、中村武志らの主力野手陣がバスに乗り込み宿舎へ。さらに12時過ぎにはトム・ハウス臨時コーチの指導でフォームチェックをしていた投手陣も引き揚げ、球場から選手の姿はすっかり消えた。 これが高木守道監督がこの秋、最大のテーマとした対話キャンプのスタートだった。 シーズン終了後、高木から全ナインに「どういう練習をしたいのか、メモでいいから書いてくるように」との宿題が出されていたが、それを元に午後からはコーチと選手の個人面談の時間が設けられていたのだ。 「ヤクルトとの差の一つは、状況に応じたプレーの未熟さ。自分はプロ。野球で生活していくという意識を強く持たなければいけない。どういう練習をするべきか考えるのも、野球に対する意識改革」と高木は話した。
野村ヤクルトの日本一で決着した西武球場では、この日もラジオ解説で訪れていた落合博満が報道陣に囲まれていた。日本シリーズが終わり、いよいよFA宣言が解禁となる。 20人ほどの報道陣を見渡し「まだ何も考えていない。あなた方に話すようなことはありません。私の問題ですから」とニヤリ。結論を出す時期についても「宣言期限(日本シリーズ終了後2週間以内)ギリギリかもしれないな」とだけ話した。 逆に手続き開始日を前に、公然と“宣言”を表明したのは巨人の駒田徳広だった。 横浜市内の自宅で取材に応じ「つい最近、決断しました。ここ4、5年が自分にとっても大事な時。フルに130試合出られるチームに行きたいですね。郵送で、明日にでも手続きします」と答えた。 そして、落合を追い続ける記者たちに緊張が走ったのが、この夜のことだ。落合が宿泊する東京都内のホテルのロビーにひょっこり現れたのが、なんとアノ人…。 「プライベートな用事ですよ。落合さんがここに泊まっていることも知らないですから」 まさかの鉢合わせに驚く報道陣に、いつもの陽気な笑みを浮かべ知人と出かけて行ったのは巨人監督の長嶋茂雄だった。=敬称略(館林誠)
中日スポーツ