「神野は終わった」と言われても…箱根駅伝“3代目山の神”に新チームが“選手兼監督”オファーを出したワケ「もっと好記録の選手はいる。でも…」
神野が「もう辞めよう」と思った時は…?
アスリートの世界は残酷だ。どれだけ努力を重ねたとしても、結実しないことの方が多い。 神野のプロ生活も、順風満帆というわけにはいかなかった。東京、パリと2度挑戦した選考会(マラソングランドチャンピオンシップ)で敗れ、五輪への出場は叶わなかった。 タイムの面でも、男子マラソン界に到来した記録続出の波に乗り切れなかった。 18年2月の東京マラソンで設楽悠太が2時間6分11秒を叩き出して16年ぶりに日本記録を叩き出すと、大迫傑(2時間5分50秒、2018年10月シカゴマラソン)、鈴木健吾(2時間4分56秒、2021年2月びわ湖毎日マラソン)がさらに更新していった。 その他にも2時間5分台、6分台の選手が続出し、全体のベストタイムがぐっと引き上げられていた期間だ。 しかし、神野のベストタイムは2021年12月の防府読売マラソンで記録した2時間9分34秒で、国内トップの選手たちとの距離は開いてしまった。 次第に注目度は下がり、「もう神野は終わった」と冷たい指摘をするマラソンファンも少なくなかった。プロとして競技に向き合った6年半で、神野は一度だけ心から辞めたいと思った瞬間があったという。 「結果が出ずに苦しんでいましたけど、辞めたいとは思いませんでした。いつだって、まだチャンスはあると信じられた。でも、一度だけ辞めそうになった時があります。21年2月のびわ湖の後です。鈴木健吾選手が日本記録を出したレースで、僕は2時間18分もかかった。あの時は、もう自分は無理なのかもしれないと、絶望しかけました」 当時の状況を、高木はこう回顧する。 「びわ湖の後だけは、横で見ていても本当にキツそうでした。ほとんど放心状態に近くて、今後の話をする余裕もなく、そっとしておくしかできない状態でした」
「勝てなくても走る。逃げたくないから」
それでも、神野は競技を続けた。というよりも、続けなければいけない気がした。 メンタルの辛さはあるものの、決して身体を故障しているわけではない。そこで辞めてしまうと、自分の人生から逃げるように思えたからだ。 「結果が出ないとメンタルがしんどくて、頑張ろうと思っても、どんどん踏ん張れなくなっていきます。もうダメかもなと何度も思いました。だけど、続けるか辞めるか悩んでいる時点で、辞めるべきじゃない。心の奥底に、ここで辞めちゃいけない、という感覚が残っていました。だから、気持ちを戻すのに少し時間はかかりましたが、挑戦を続けることにしました」(神野) 走り続けた神野は、びわ湖毎日マラソン(2021年2月)の次に出場した防府読売マラソン(同12月)で初めて2時間10分を切り、パリ五輪選考会の出場権を獲得した。 しかし、五輪の出場枠は3つしかない。選考会に61人が出場する中、ベストタイムで劣る神野が、大迫や鈴木と渡り合って上位に食い込める可能性は低かったのも事実だ。 「本音を言うと、パリの選考会が厳しいことはわかっていました。だから、防府からパリの選考会までは、理想と現実のギャップが苦しかった。ほとんど結果がわかっていながらも、理想を追わなきゃいけない、というような」(神野) 加えて、パリ五輪選考会の1カ月前には股関節に違和感を覚え、全く練習ができない期間があった。客観的に見て、神野が選考会で上位に食い込む可能性はほとんどなかった。 それでも神野にとっては、走り切ることに意味があった。チーム神野で棄権の可能性が議論にあがっても、神野は頑なに出場すると言い張った。 「本人も含めて、当時の状況を知るチーム神野の誰もがパリ五輪の出場権を獲得するのは厳しいとわかっていました。でも、本人は出ると頑なだった。その時は、無理にでも出場を辞めさせるべきではないかと考えた瞬間もありました。でも、今振り返るとこう思います。五輪の出場権どうこうではなく、“一度決めたらやり抜く”という神野の生き方へのこだわりだったんだろうなと」(高木)
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