『Apple Vision Pro』が50台以上集結するナゾのイベント「Apple Vision Proホルダー限定Meetup」に潜入
6月28日に日本に上陸した空間コンピュータ『Apple Vision Pro』。約60万円という超高級デバイスながら、長らくギークやファン、デベロッパーたちを待たせた「Appleのヘッドセット」だけに、ノータイムで購入を決意したという人も少なくない。 【画像】アーリーアダプターたちはどうApple Vision Proを利用しているのか? この日発表されたアンケートの結果 では、そんなイノベーター気質のVision Proホルダーだけを呼んだ会を開いてみたら、どのくらい集まるのだろうか? 7月8日に開催された「Apple Vision Proホルダー限定Meetup #2」は、「約50人」という回答を提示してくれた。 日本のXR企業4社が共催したこのミートアップに、筆者とリアルサウンドテック編集部も招待いただいた。ちなみに筆者はまだ『Apple Vision Pro』を所持していないが、取材と称して現地に赴いた。とはいえ、実際の動機は「どう活用する気なのか」「どんな人が買っているのか」という疑問、そして「あの高額デバイス所持者が50人も集まる現場を見たい」という好奇心だ。 さて、実際どんなミートアップになったのか。やや駆け足になるが、その雰囲気をお伝えしていこう。 ■参加者ほぼ全員がVision Proを装着 最年少は自費で購入した中学生! 「Vision Proホルダーミートアップ」は主催企業のひとつである株式ambrのオフィスでおこなわれた。19時からスタートということで、筆者が訪れたときにはすでに大勢の参加者がオフィスの一角にあるイベントスペースに集まっていた。 そして、参加者のいずれもが『Apple Vision Pro』を頭にかぶっていた。日本国内で購入すれば、1台につきおよそ60万円。この日の参加人数は50人以上であり、どんぶり勘定でも総額約3,000万円分の『Apple Vision Pro』が集結していたことになる。ちょっとした一軒家が買えてしまうレベルだ。 まず最初にambr CEOの西村氏から開会の挨拶と、参加者のアンケートを元に作成された『Apple Vision Pro』利用傾向の統計が発表された。使用頻度は「毎日」から「月1回未満」まである程度バラけていたが、使用時間は「5~10分程度の短時間」と「1時間程度」が支配的だ。そんな中、ただ一人「ほぼ付けたまま生活している」と回答したのが、最年少のミートアップ参加者である中学3年生だったのには驚かされた。 今回の参加者で最年少だったのは山本悠貴さん。ドローンレーサーとして活躍している14歳で、現在は自費で購入した『Apple Vision Pro』を常に装着して生活し、PCやスマートフォンの代替となるかを検証中とのことだ。こうした若いテクノロジー好きも惹かれるデバイスなのだと、あらためて実感させられる。 ■どんなコンテンツを作る? 三者三様のライトニングトーク 続いては、参加メンバーによるライトニングトークが実施された。共催企業のambr、MESON、STYLY、GRAFFITYよりそれぞれ1名ずつ、さらに登壇希望の参加者2名が『Apple Vision Pro』に関する開発成果などを発表した。 MESONの安藤氏は、「PolySpatial」というツールを活用した展示コンテンツ開発についてのTIPSを解説。Vision OSシミュレーターに接続できるアプリ「Play To Device」を活用した開発工程に関する知見を展開した。 STYLYの山口氏は、マルチモーダルAIを活用したデモアプリを披露。『Apple Vision Pro』のカメラに映る映像を認識し、会話や画像生成をリアルタイムで行うAIの挙動に、会場からも大きな歓声が上がった。締めには、デモアプリのために開発したプラグインをMITライセンス(代表的なオープンソースライセンス)で公開したことも発表し、フットワークの軽さも見せてきた。 Spatialゲーム『Shuriken Survivor』をリリースしたGRAFFITYの森本氏は、同作のデモを見せつつ、開発のコンセプト解説や裏話を展開した。実践的な知見が多く提示された中で、「 『Apple Vision Pro』を長時間装着するのは疲れるので、プレイ時間は5~10分を想定」「1回のプレイを短くする代わりにローグライク要素を取り入れ、何度もプレイしたくなる設計とした」といった体験設計にかかわる話には大きなヒントが宿っていたように思う。 ambrからは、『VRChat』プレイヤーでもあるサックー氏が登壇。『Apple Vision Pro』を通じてVRM形式の3Dアバターとお散歩ができる自主開発アプリを紹介しつつ、Unity上での実装について具体的な手法を解説した。3Dコンテンツ制作に長けたUnityの強みを改めて感じつつ、Unityを選ぶかSwiftを選ぶか、開発者の間でも悩ましい選択を続けている印象を受けた。 参加者のライトニングトークはよりディープさを増した。GODOT ENGINEを用いたVision OSアプリ開発の知見発表や、『Apple Vision Pro』発表からコンテンツ開発、そして国内発売までの流れを振り返る登壇など、個人開発者も手探りで空間コンピューターと触れ合っていることが伝わった。ちなみに、個人参加のうち二人目の登壇者はApple表参道の『Apple Vision Pro』購入第一号だったそうだ。 そして実機デモも多かった印象だ。共有される登壇者の視界映像は、『Apple Vision Pro』が与える体験を100%は伝えきれないものの、「なにが起きているか」をわかりやすく示していた。 ライトニングトークのあとには、ambrの子会社がひそかに開発を進めていたiOSとVision OSに対応したアプリ『gogh』も紹介された。 選択したアバターが視界内に現れ、音楽を聞きながらいっしょに作業ができる作業支援アプリとのことで、ポモドーロタイマーなども搭載されているようだ。完全にステルスで開発されていたのを見るに、『Apple Vision Pro』関連の開発は意外と表に出ていないのかもしれない。 ■空間コンピューティング時代の黎明期を見届ける ライトニングトーク終了後、参加者たちによる記念撮影が行われた。こうして並んでみると、非常に壮観だ。最初はデバイスの総額に意識が向いたが、この段階で「同じヘッドセットを装着する人が50人もいる光景」そのものの新鮮さに気が付く。 VRヘッドセットで似たような光景があったか、と問われると筆者はとっさに思い出せない。「頭に被るコンピューター」は日々の生活の延長線上に溶け込むものなのだと、50人のVision Proホルダーを目の当たりにして実感させられる。 懇親会でも当たり前のように『Apple Vision Pro』を身につけたまま会食に参加している人が大半だったことも印象的だ。もちろん、この場にいた人々がいわゆるイノベーターに近い属性であることは考慮すべきだが、身につけたまま会食や談笑ができる点もまた、このデバイスがどう使われるものかを示している。 筆者自身も先日『Apple Vision Pro』を体験したが、その視界と操作感の自然さにとにかく驚かされた。本体重量はさておき、身につけたまま生活することなど造作もないほど、このデバイスは「自然であること」に大きな特徴と魅力がある。 そんなデバイスと自費を投じて向き合う人々が一同に会する場には、黎明期ならではの熱気がただよっていた。ここから何が生まれるのか、現段階では予想すらつかないが、その“見通せなさ”にこそワクワクする人たちが集まっていたように思う。どんなカルチャーも、そんなカオスな熱量にあふれている時が楽しいものだ。 ……なにより、筆者自身が「ほしくなったわ、 Vision Pro!」と思ってしまった時点で、このミートアップの意義は十分すぎるほど果たせているだろう。 (編注:後日、浅田は実際に『Apple Vision Pro』を購入したのであった)
浅田カズラ