自由診療クリニックの高額治療にひそむ闇… がんは「標準治療」こそが「最高」の治療
40歳で最初のがんになり、53歳の現在までに脳腫瘍、悪性リンパ腫、白血病、大腸がん、肺がんを乗り越えた高山知朗さん。30歳で起業し「会社=自分」だったIT社長が、闘病を経て、会社売却を決断するに至るまでに、どう“人生の方向転換”を果たしたのかを語る。『5度のがんを生き延びる技術 がん闘病はメンタルが9割』より一部を抜粋して掲載します。
治療を否定したくなる気持ちと闘う
がんには辛い治療のイメージがあるので、「怖い手術や辛い抗がん剤治療を受けなくてもどこかにがんを治す秘策があるはず」と、現実から逃げたくなる気持ちも痛いほど分かります。 実際、「抗がん剤は効かない」「がんは放置するのがよい」などとがんの三大治療(手術、放射線治療、抗がん剤治療)を否定するような、患者にとって耳触りのよいキャッチーな極論をタイトルにした本もかつて話題になりました。 著者が大学病院の医師だったりすると、内容も信頼できそうに思えます。がんという過酷な現実を前にして、そうした安易な道に逃げたくなってしまうかもしれません。 でも「抗がん剤が効かない」のが本当なら、世の中から抗がん剤はなくなっているはずですし、放置でいいならがん治療そのものがなくなっているはずです。 これは、「抗がん剤が効かないがんもある」「焦って手術しなくても、放置(正確には経過観察)していればよいがんもある」という事実から、世間の注目を集めるために一部を切り抜いて極端に単純化して表現しているものと考えられます。 極論には注意が必要です。
自由診療クリニックの高額ながん治療の問題点
ネットを検索すると、「副作用の少ないがん治療」「ほぼ全てのがんに対応」「ステージ4でも諦めない」などの甘い言葉が並んだクリニックのページがたくさん見つかります。 そうしたクリニックは、「免疫 療法」「遺伝子 治療」などといった治療を、数十万円から数百万円もかかるような高額な自由診療として提供しています。 驚くほど高額ですが、有名大学や有名病院出身の医師が提供している場合もあり、期待してしまいそうになります。 しかし、本当にそれらの治療でがんが治るのであれば、その効果を裏づける十分なエビデンスがあるはずです。 そして臨床試験を経て保険適用となって、高額な自由診療ではなく、保険診療として、総合病院や大学病院を含めた多くの病院で提供されているはずです。 そうなっていないのは、有効性と安全性が確認されていないからです。「お金持ちだけが受けることができる最先端の秘密の治療」だからではありません。 全ての自由診療のクリニックを否定するつもりはありませんが、実際に、「治療」というより「医療ビジネス」として経営されている金儲け主義のクリニックもあるようですので注意が必要です。 「ちゃんとした医師がやっているから大丈夫」とは必ずしも言えない世界なのです。 かく言う私自身も、こうした自由診療のクリニックに関して2つほど苦い経験があります。 約20年前に妹が乳がんで闘病していたときの話です。 妹のがんは肝臓にも脳にも転移してしまったため、国立がん研究センター中央病院の主治医から「もう積極的な治療の手段がないので、そろそろ地元でホスピスを探し始めたほうがいいです」と告げられました。 それまでに免疫細胞療法について調べていた私は「自由診療の免疫細胞療法などは効果がないのでしょうか?」と質問しました。 もちろん答えは「効果はありません」というものでした。 続けて「もし先生が妹と同じ立場になっても、自由診療のがん治療は受けませんか?」と質問しましたが、もちろん答えは「受けません」というものでした。 あまりにもきっぱりした回答だったこともあり、自由診療に期待することはやめました。 それでも、妹が治ることを諦めてホスピスを探すということは、私も妹の夫もどうしてもできず、治す方法がまだあるはずだと信じて、代替療法を提供する病院に妹を連れていったりしました。 しかし残念ながらしばらくの後、妹は天国に旅立ってしまいました。