オジロワシが感電した! 北海道にある日本唯一の「猛禽類の病院」とは(レビュー)
北海道の釧路市にある「猛禽類医学研究所」は、オオワシやオジロワシ、シマフクロウといった絶滅危惧種の保全活動を行う動物病院だ。 2005年、環境省の釧路湿原野生生物保護センター内にこの研究所を設立した著者は、世界でも珍しい猛禽類専門の獣医師として31年のキャリアを持つ人物である。本書は毎年100羽近くが運び込まれるという研究所を拠点に傷病鳥の治療やリハビリ、野生復帰の活動を続ける著者が、自然と野生動物の共生のあり方を日々の「仕事」を通して伝える一冊だ。 猛禽類医学研究所での日々や獣医としての歩みを回想する著者は、自身を〈傷ついた野生動物の声なき声を人間界に伝えるスポークスマン〉と書く。
野生動物と人間の営みの境界線上で、希少な猛禽類はどのように傷ついているのか――。 猛禽類が怪我を負う背景には、交通事故や風車事故、電線での感電事故、そして、猟銃に使われる弾丸を摂取してしまったことによる鉛中毒など様々な理由がある。 一方、人間の作る構造物や環境にたくましく適応し、〈今風〉に生きている野生動物たち。救護の現場から鳥たちの生態を丁寧に観察することで、人間との距離感の近さ故に生じる〈軋轢〉の実態が見えてくる過程が興味深かった。 そして、そのなかで提唱されるのが「ワンヘルス」という考え方だ。〈人間の健康、動物の健康、自然環境や生態系の健康をひとつの健康としてまとめる〉という概念で、それぞれのバランスを取りながら双方にとっての環境そのものを「治療」していこうという考え方である。 行政や企業とも協力しながら、そのような環境づくりをいかにして実現していくか。様々な事例と熱い思いとともに描かれる実践の日々は、人と自然とのつながりを考えるきっかけになるはずだ。 [レビュアー]稲泉連(ノンフィクションライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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