「与党敗北」という予想された惨事 衆院選後の日本株を考える【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
2. ジンクス破り「異様な10月相場」
■「与党の惨敗」を先読みしていたのでしょう、10月の日本の株式市場は異様な展開となりました。「選挙は買い」のジンクスが示すように、1969年以降の総選挙で日経平均株価は17戦全勝、選挙期間(解散前日から選挙直前まで)の騰落率は平均約3.9%のプラスでした。しかし、今回の選挙期間(10月8日~10月25日)の日経平均の騰落率は約▲2.6%のマイナスとなり、まさに「ジンクス破り」の相場展開となりました。 ■「異様な10月相場」は、海外の株式市場や為替市場を確認することで更に際立ちます。今回の選挙期間中、米S&P500種指数は約2%上昇し(10月7日~10月24日)、ドル円は4円16銭の円安となっています(10月8日~10月25日)。通常、米国株が上昇し、更に為替が円安に傾く場合、日本株は上昇することがほとんどですから、10月の日本株の下落がいかに「異様」であったか、容易に想像がつくでしょう(図表1)。 ■マーケットの「嫌な雰囲気」は、オプション市場でも確認することができます。選挙期間中のオプション市場が織り込む日経平均の変動率(日経ボラティリティ指数)は、米国株の変動率(VIX指数)と乖離して大きく上昇していました。つまり、オプション市場の一部の参加者は、日本株の「波乱」を読んで「相場に激震が走ると儲かる取引」を積み上げていた可能性があります(図表2)。
3. 衆院選後の日本株の行方
■衆院選後の日本の株式市場は、「与党敗北」という失態に石破内閣と自民党執行部がどう責任を取るのか見定めつつ、しばらくは神経質な展開とならざるを得ないでしょう。とはいえ、今後の相場展開を見通す上で注意したいのは、「異様な10月相場」が今回の与党惨敗をあらかじめ予見し、その下落過程で株価に相当程度織り込んできた可能性があることです。 ■足元では政局の流動化を懸念して、市場は不安定となっていますが、こうした相場環境だからこそ、日本株のファンダメンタルズや相場水準を確認して、冷静な投資判断を行うことがとても重要になります。 ■日本の企業業績は今年度も堅調な増益が見込まれていますが、今回の選挙結果を受けて急に悪化するものではないでしょう。10月28日のTOPIXは2,605.71ポイントで寄り付きましたが、12ヵ月先予想PERは約14.0倍となり、過去5年の平均値の約14.9倍を下回っています。また、経験則では12ヵ月先予想PERの12倍台は底値圏と考えられることから、足元の株価水準は相応に「政治リスクを織り込んだ水準」と言えそうです(図表3)。 〈政権維持なら「何でもありの自民党」〉 ■今回の選挙結果を受けて市場の動揺が続く可能性はありますが、こうした雰囲気に慌てて拙速な取引に走ってしまうと、後で後悔することになりかねません。というのも、自民党は様々な政治信条を持つグループ(派閥)が政権という求心力に引き付けられて一つの政党を形造っているからです。このため、これまで自民党は政権維持のために驚くべき柔軟性を発揮してきた過去があります。今回の結果を受けて、自民党は石破総理の後任に予想外のリーダーを選んだり、かつて旧社会党と連立したように市場の想定を超える「なりふり構わない生き残り策」を繰り出してくる可能性があります。仮に、こうしたシナリオが現実のものとなった場合、買戻しが相場を押し上げる「踏み上げ」の展開となり、売り方は窮地に追い込まれる可能性が出てきます。 ■「一寸先は闇」と言われる政治の世界では、市場の想定しない「ウルトラC」がいつ飛び出してもおかしくありません。そう考えると、「異様な10月相場」を経て既に軟調な相場を深追いするのは、危険な賭けに思えてなりません。
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