安定感を増した稀勢の里 横綱になれるか
先場所に引き続き、稀勢の里は、今場所も積極的な出稽古で直前調整を続けた。6月27日から2日間は、境川部屋に出向き、豪栄道、妙義龍の両関脇を圧倒するなど万全の状態に思えたが、7月1日の春日野部屋では、栃煌山に7勝11敗。 「こてんぱんにされた。全てを考え直してやるしかない」と、2日に予定されていた春日野部屋への出稽古を急きょ、キャンセル。初めての綱取りに不安をのぞかせた。 「周りから注目されるのは嬉しい。でも気負わず、いつものことを繰り返しやることが一番」。 満を持して名古屋に乗り込んだはずだった。番付発表会見で見せた表情、雰囲気はいつもの場所と何ら変わりはなかった。 先場所は初日から13連勝したものの、最終盤で横綱白鵬、大関琴奨菊に連敗。惜しくも初優勝は逃した。それでも相撲内容はこれまでとは見違えるほどだった。 「大関稀勢の里関を称えてもいいと思います」 全勝優勝した白鵬がインタビューでは自ら話を切り出してまで、最後まで賜盃を争った大関に言及した。それだけ先場所の稀勢の里は難敵だったのであり、綱取りを目指すだけの力は十分に備わっていると、肌を合わせた横綱自身も認めたことに他ならない。 申し分ない体格と素質で、史上2位となる18歳3カ月の若さで新入幕。周囲は同じく10代で入幕した大鵬、北の湖、貴乃花といった過去の大横綱と将来を重ね合わせていた。しかし、「日本人力士期待の星」は横綱朝青龍や白鵬を撃破するなど、しばしば“大物食い”を果たす一方で、格下相手にあっけなく星を落とすことも珍しくなく、三役と平幕の往復に甘んじていた。 転機となったのは平成22年11月場所2日目、横綱白鵬の連勝を63で止める歴史的勝利を収めたことだった。翌場所からは関脇に定着。場所直前に先代師匠(元横綱隆の里)を亡くすという悲しみに襲われたがこれを乗り越え、平成23年11月場所で大関昇進を決めたのだった。 初優勝の最初のチャンスは大関3場所目に訪れた。10勝1敗と後続に2差をつけて単独トップに立ち、大本命の白鵬は中盤に3連敗を喫するなど早々と脱落。賜盃は間違いなしと思われたが、終盤はまさかの大失速で11勝に終わった(優勝は決定戦を制した12勝の平幕旭天鵬)。失意の大関は悔しさを露わにし、報道陣からは何を聞かれても無言。舌打ちを何度も繰り返した。 あれからちょうど1年。先場所はまたも初賜盃はお預けとなったが、内容的には大きな進歩が窺えた。一番の要因は、立ち合いで腰がしっかり降りるようになったことだろう。低く当たることにより、圧力が下から上へと効果的に伝わり、相手の重心を容易に起こせるようになった。こうしてコンスタントに先手が取れるようになったことが、安定感のある相撲につながった。