憲法改正議論「地方自治」の論点 少ない規定、二元代表制のあり方や徴税権
国と自治体の定義や役割を再構築する必要
93条から95条までのように特に憲法に規定があるもの以外は、国が柔軟に法律で規定する余地が大きいですが、その一部を改めて憲法に記載すべきであるという主張もしばしば見られます。地方自治体での選挙制度や住民投票の制度などすでに挙げたもの以外では、地方自治体の財政に関する規定が代表的なものでしょう。具体的に言えば、地方自治体に徴税の権力を付与するとか、地方自治体の規模に応じて一定の財源を保障するとかいった内容が考えられます。このように財政についての内容を盛り込むとすれば、単にそのような権力や保障が与えられるというだけではなく、なぜそれが必要かについての記述、つまり地方の役割も明記されている必要はあるでしょう。つまり、これまで「地方自治の本旨」としてきたものを、どのように具体的に再構築するかという議論とセットになると思われます。 憲法に具体的に書かれている内容が少なくて、地方自治体について国が柔軟に法律で規定できるということは、書かれていないことについての最終的な判断の権限を基本的に国が留保していることを意味しており、それだけ国の地方自治体に対する権力が強いと考えられます。地方自治体への分権を憲法で表現しようとするならば、それは国と地方自治体の「契約」のような性格を持つことにもなるので、より詳細な規定が必要でしょう。それがないと、国と地方自治体で意見が対立した時に参照すべきものがないからです。地方自治についての記述を増やすことは、地方自治体の行動や主張を正当化する根拠を与えることになるのです。 ここまで基本的に現行憲法での統治機構を前提に述べてきましたが、地方分権を強調してさらに大きな改正が議論される可能性もあります。中でも、地方自治体が国会での意思決定に影響を与える手段として、第二院である参議院を活用することが考えられます。その方法として、参議院議員に地方自治体の代表という位置づけを与えたり、参議院議員を知事や市長などに兼職させたりするようなことも考えられるかもしれません。その場合は、現行の第8章のみならず、国会を扱う第4章とも連動させた改正が必要になるでしょう。
------------------------------- ■砂原庸介(すなはら・ようすけ) 博士(学術)、神戸大学大学院法学研究科教授、ブリティッシュコロンビア大学客員准教授。専門は政治学、行政学、地方自治。近著に『分裂と統合の日本政治』(千倉書房)