憲法改正議論「地方自治」の論点 少ない規定、二元代表制のあり方や徴税権
明確に規定されている「議会設置」と「二元代表制」
地方自治については基本的に憲法の規定が少なく、国が法律で柔軟に変更できる部分が多いですが、他方、憲法で明確に規定されている部分もあります。その一つ目は93条が定める「議会を設置する」ことと、「長・議会を選挙で選ぶ」ことです。 中でもまず、憲法で「地方公共団体には、…議事機関として議会を設置する」とされているにもかかわらず、地方自治法(94条)では「町村は、条例で、…議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる」とされている点は、一つの論点と言えます。これは最近高知県大川村で提案されて話題になった「町村総会」ですが、憲法をそのまま読むと、地方自治法で「議会を置かず」とすることが妥当かは判断が難しいところです。現在の法解釈としては、住民自治の観点からより好ましいとされる直接民主制ができないから間接民主制を採用しているという前提のもとに、町村総会の方が議会よりも好ましい議会の形態であるから認められるとされているところがあります。しかし本来、直接民主制と間接民主制を連続的な、優劣がつくものとして単純にとらえることはできません。憲法改正の機会には、後述の95条と併せて、統治機構の中で直接民主制をどのように位置づけるかを考える必要があるでしょう。 93条についてさらに考えるべきは、「長と議会を選挙で選ぶ」こと、いわゆる「二元代表制」を定めている点です。地方自治体の仕事を行う体制(「執政制度」といいます)を憲法で定めるのは良いのですが、長・議会の選挙制度など関連する重要な制度が法律で変更できることを考えると、地方の執政制度のみが憲法で規定されているのはやや不思議な感じもあります。外国の事例を見ると、地方自治体は必ずしも「二元代表制」で運営されているわけではなく、議会から代表を選ぶ「議院内閣制」や、議会の監督のもとで地方自治体を運営する「シティーマネージャー」を採用する方式もあります。実は日本でも、戦前の市長は最終的には内務大臣によって決められるものの、議会の推薦が前提となっていて、実質的には「シティーマネージャー」のように運用されていました。憲法改正の議論では、どのような執政制度をどのように規定するかということに加えて、地方自治体に制度選択の自由を与えるかどうかということも論じられるべきです。 二つ目は、94条で「法律の範囲内で条例を制定することができる」と規定されている、法律と地方自治体の条例の関係です(なおこの関係について、地方自治法では「法令に違反しない限り」条例を制定できると表現されています)。ここでの重要な論点は、地方自治体が制定する条例を国の法律と同等のものとして扱うことで、地方ごとに国民の取り扱いが異なりうることを認めるかどうか、ということになります。条例で、例えば、土地の集約を容易に進めやすくしようとした結果、財産権が侵害されやすくなったり、治安を強化しようとして他の地域では罰せられない行為が罰せられるようになったりすると、憲法で定められた国民の「法の下の平等」に反する事態が生じることになると言えるかもしれません。 最後が95条にある「一の地方公共団体のみに適用される特別法」を制定する際に、その地方自治体で住民投票をしなくてはいけないという規定です。この規定の下に行われた住民投票はこれまでに19例ありますが、たとえば広島市を対象とした「広島平和記念都市建設法」などのように、全て「都市建設」のために特定の自治体に補助金を与えるもので、賛成多数で可決されています。しかし最後に行われたのは1952年であり、60年以上この形式の住民投票は行われていません。最近では、米軍基地問題に関する沖縄県や福島原発に関する福島県などを念頭に、特定の地方自治体に関する法律なのに住民投票が行われていないことについて批判もなされています。憲法改正を考えるのであれば、この形式の住民投票を存続させるかだけでなく、1996年の新潟県巻町の原発建設をめぐる住民投票以降急速に広がっている地方自治体での住民投票の実践を、憲法に新たにどのように取り込むかが論じられてもよいと思われます。