「死ぬぎりぎりまで働けってことですか」トラック運転手の働き方改革、国の主導で実現できる? 長時間労働+ただ働き…どうなる物流の2024年問題
午前4時、10トントラックに乗り込んだ運転手の男性は、暗闇の中、横浜市にある勤務先の運送会社を出発した。積み荷は食品。届け先は千葉県の倉庫だ。午前5時半に到着すると、敷地内の駐車場には、既に何台ものトラックが並んでいた。 【写真】ダブル連結トラック
順番に荷が降ろされるとして、どれぐらい待つことになるのか。長年の経験から、「6時間かな」と見当をつけた。順番になれば携帯電話に連絡が来る。トラックの中で待機したが、正午になっても呼ばれない。そのうち、トラック運転手を相手に弁当を売るバンが回ってきた。 昼食後も待ち続け、気付くと午後3時。まだ呼ばれない。この後、群馬県の倉庫で新たな荷を積み、別のドライバーが福岡県まで運ぶ予定になっている。 「これでは福岡到着は1日遅れる」 焦った男性は荷主の食品会社に連絡した。すると、担当者から倉庫に苦情がいったのだろう。急に順番が回ってきた。ただ、「フォークリフトで自分で降ろしてよ」と言われた。 結局、群馬県の倉庫に着いたのは午後7時。横浜市の運送会社に戻った時には日付をまたいでいた。勤務時間は20時間。うち9時間は「荷待ち」だ。運転手なのに、フォークリフトを使う「荷役」もさせられた。まともな休憩は30分だけ。走行距離は約400キロだった。
「でもこんなの普通です。1運行で600キロ運転することもありますから」。翌朝は午前6時に出庫する予定になっている―。 トラック運転手の「働き方改革」が4月1日、始まった。定められた残業時間の上限は年960時間。1カ月当たりに換算すると80時間だが、これは「過労死ライン」に相当する。問題は長時間労働だけではない。現場から聞こえるのはこんな声だ。 「運転手に『ただ働き』を押しつける商習慣が変わっていないのに、改革なんて無理」 運転手の働き方改革は、本当に実現するのだろうか。(共同通信=山岡文子) ▽「遅刻許されず、早く着いても嫌がられる」 男性は現在、労働組合「プレカリアートユニオン」(東京)の運送・運輸支部長(61)を務める。現役のトラック運転手でもある。支部長は国が主導する働き方改革を、こう見ている、 「結局、死ぬぎりぎりまで働けってことですよ」 長時間労働の要因は運転時間だけではない。運送会社の客である荷主の都合に大きく左右され、ほとんど労働時間とカウントされない業務の影響が大きい。代表的なのは「荷待ち」と「荷役」だ。