人間とタコは「友だち」になれる? なぜ科学者は今タコに注目する? タコ博士に聞いてみた
タコ研究の第一人者が教える「タコのおもしろさ、素晴らしさ」
「タコは、今まさに旬を迎えている」と科学者たちが口を揃えて言う。近年、タコの研究は爆発的に発展しており、生物界を超え、AIやソフトロボット工学といったジャンルからもタコは熱い注目を集めている。人間とはまったく異なる種であるにもかかわらず、タコには人間と同じような知性や感情があることが解ってきている。『神秘なるオクトパスの世界』に序文を寄せ 、ナショナル ジオグラフィックTVとディズニープラスの番組「解明! 神秘なるオクトパスの世界」のプレゼンターを務める、タコ研究の第一人者アレックス・シュネル博士に、専門家の見地から「タコのおもしろさ、素晴らしさ」を語ってもらった(書籍編集部)。 【動画】ウツボ vs タコ、死闘を制するのは?
――日本人は昔からタコが大好きです……主に食べ物として。ですがタコは非常に好奇心旺盛で、番組や本でも見られるとおり、人間に対しても興味津々に近づいてきますよね。我々をサメのような捕食者として恐れないのはなぜなのでしょうか?
とても良い質問ですね(笑)。タコがいかに早く「信頼すること」を学ぶかについて、私はいつも驚かされ、感動しています……。殻も牙も爪も持たないタコは、非常に脆弱な生き物です。自分の身を守るものは何もありません。それでもタコは、その極端な脆弱性を上回るほどの衝動に駆られた好奇心を見せるのです。 私は、タコのこの特性は、親の世話を受けないことから来ていると考えています。タコは卵からかえった瞬間から完全にひとりぼっちです。指導してくれるタコはいません。そして、ほとんどの種が1~2年しか生きられない、とても短命な生き物です。でも、だからこそタコは、どんな機会も学びの経験と捉えるのだと思います。 タコには内向的なタイプもいます。人間との関わりを望まないタイプもいますが、十分な時間を過ごせば、タコがあなたと握手をしたいと思ってくれる瞬間が、一度ならず訪れると思いますよ。
――「タコは今、まさに旬を迎えている」と本に書かれていたとおり、生物界のみならず、AIやソフトロボット工学といったジャンルの研究者からも注目されているそうですね。具体的には、タコの何が彼らの興味を引いているのでしょうか?
異分野の研究者は、タコの非常に独特な脳と神経系に注目しています。これまで「知性」を考えるときに常に中心に置かれてきた人間や、人間と近い動物とはまるで異なるにもかかわらず、タコが高い知性を見せていることが、彼らの興味を引きつけているのです。 タコの脳はドーナツ形で喉の周りに巻かれていますが、タコのニューロンの2/3は8本の腕に分散されています。そういった非常に異なる神経構造を持つ生き物が、かつては人間だけが持っていると思われていた知性のきらめきを示しているわけです。タコも道具を使い、素晴らしい記憶力や優れた問題解決能力を持ち、魚と協力して狩りをし、さらには夢を見ている可能性までが解ってきています。 つまり、「知性」がどのように機能するのかを本当に理解したいのであれば、異なる脳を持つ生き物を見ることが重要だということです。 コンピューターの機能を理解したいときと同じです。アップルのマッキントッシュだけを見るのではなく、アップルとマイクロソフトを比較して、異なる神経ハードウェアが異なる問題に対して、類似した、または異なる解決策を提供する方法を見る必要があるのです。