増え続ける業務で「また残業か...」 管理職の罰ゲーム化に、企業が無関心を貫くワケ
日本の管理職は「強者のなかの弱者」である――。日本のマネージャーの苦境と解決への糸口とは? 『Voice』2024年8月号では、ロングセラー『罰ゲーム化する管理職』(インターナショナル新書)の著者、小林祐児氏に話を聞いた。 【図表】日本の長時間労働の実態 ※本稿は、『Voice』(2024年8月号)より、より抜粋・編集した内容をお届けします。 聞き手:編集部 阿部惇平
日本の管理職は「強者のなかの弱者」
――本書は、管理職という本来は会社にとって大事なポジションが「罰ゲーム」のようになっている構造や原因を明らかにしながら、そうした事態を解決するための具体的な糸口を提案しています。執筆の動機は何でしたか。 【小林】日本のマネージャー向けの本の多くは、「もっと工夫せよ」「これを学べ」と、さらに負担を押し付けるものばかりです。そうした状況への問題意識が一つのきっかけになりました。 私に言わせれば、日本の管理職は「強者のなかの弱者」です。組織の序列では「上位」のポジションですが、出世しているがゆえに孤立している人が多い。 加えて、管理職が抱える負荷は、近年増え続ける一方です。「マネージャー」として、部下の育成や管理業務を任される一方、昨今は人手不足の影響で「プレイヤー」としての成果も同時に求められます。しかも、働き方改革やコンプライアンス対応にも日々追われている。まさに「職場のしわ寄せ」を一手に引き受けている状況です。 しかしながら、企業や社会のなかで「管理職を救おう」という動きは一向に起こりません。なぜならば、管理職の問題は、大抵はビジネスモデルや会社運営上の問題だと見なされてしまうからです。要するに、多くの人が、管理職の問題に対して無関心なのです。 だからこそ、世に溢れるマネージャー向けの本の多くは、1on1面談のコツやフィードバックのポイント、部下育成のツボなど、管理職に「あれもこれも」とさらに負荷をかける内容になっているわけです。民間企業のビジネスの現場の近くで研究する身としては、こうした状況は看過できませんでした。 ――本書は、管理職の「罰ゲーム化」の攻略方法が具体的に論じられているだけでなく、それが生じる「構造的な要因」についても詳しく解析されています。どんな意図があったのでしょうか。 【小林】大半の企業が、意欲を高めたりスキルを鍛えたりすることで、管理職に「罰ゲーム化」を乗り越えさせようとしています。しかしこれは、組織に責任がある問題を、個人の責任にすり替えているだけです。管理職に負荷をさらにかける「筋トレ的な発想」では、「罰ゲーム」を攻略するどころか、さらに迷宮入りさせてしまいます。私たちは「罰ゲーム化がなぜ起きているのか」という「問題の構造」を理解する必要があるのです。 ――「罰ゲーム化」を生む「構造的な要因」とは何でしょうか。 【小林】本書でも触れましたが、象徴的な例の一つが、日本の組織に特有に見られる「入れ子」状のコミュニケーションです。平たく言えば、役職者が2つ下の階層まで口を出しすぎる、という問題です。 たとえば、部長が課長を飛び越えて、主任やメンバーに対してあれこれ口を出すという姿は、日本の組織ではありふれた光景です。上位役職者が「チーム全体の代表者」のような意識を強くもっていて、それによって指示系統にズレが生まれてしまうのです。 加えて、上位役職者の多くが、現場の感覚がすでにわからなくなっており、生半可な知識で現場に口を出しているケースが散見されます。その結果、組織の意識決定が非常に煩雑になり、上司と部下の板挟みに遭う「中間管理職」にそのしわ寄せが及んでいるのです。 このような歪なコミュニケーション構造は、一刻も早く刷新すべきです。トップダウンで思い切った経営改革を行ない、少なくとも、管理職同士の指示系統はハッキリさせておくべきでしょう。