地獄の門が開いた…「文在寅」狙う検察の刃、退任後「尹錫悦」は避けて通れるか(2)
ソン・ハニョン先任記者の「政治の舞台裏」
(1から続く) ■前・元大統領に対する捜査は高度な政治問題 前・元大統領に対する捜査は単なる刑事手続ではありません。高度な政治的事案です。最も有力な仮説は、国政の動力を失った尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が支持率の回復を狙って、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領をスケープゴートにしているという分析です。もしそうなら只事ではありません。今回の事件の波紋は捜査が進むにつれ、ますます大きくならざるを得ません。事態の深刻さのためでしょうか。いわゆる保守系新聞の社説の論調も分かれました。「中央日報」は9月2日付の社説でこのように書きました。 「検察も事案が重大であることを自覚しなければならない。この事件の仕組みは比較的単純で、告発されてから3年が過ぎた。疑惑があれば急いで調査して起訴するか、容疑が定まらないのなら速やかに終結すべきだった。ところが、捜査を引き延ばし、前回の総選挙を控えてから急にスピードを出し始めたのだから、悪化した支持率の持ち直しを狙った局面転換用という噂が立つのではないか」 「何も立証できなければ、政治的な報復のため恥をかかせる捜査だったという批判を免れない。迅速、公正、厳正な捜査を期待する」 一方、「朝鮮日報」の9月2日付の社説の見出しは「『文の家族不正』をかばうなら、まず『朴経済共同体』の判決文を見よ」でした。朴槿恵(パク・クネ)元大統領がチェ・スンシル氏と経済共同体で関連付けられ収賄で有罪判決を言い渡されたのだから、文前大統領に対する検察の捜査も正当だという論理です。与党「国民の力」の政治家たちはだいたい「朝鮮日報」の主張に従っています。9月2日の最高委員会議でチュ・ギョンホ院内代表はこう述べました。 「文在寅政権初期に前・元大統領2人が拘束され、多くの保守陣営の人々が拘束された時、民主党は積弊清算だと熱狂した。与党の時は積弊清算、野党の時は政治的報復という民主党のタブルスタンダードに共感する国民は多くないだろう」 キム・ジェウォン最高委員もこう語っています。 「あなたたちはこう言う。その石はどこから飛んできたのだろうかと。その石はあなたたちが行った積弊清算の狂風、そして国政壟断という罪をかぶせて多くの人々を刑務所に送り、血を撒いたその当時に投げた石だ。これからあなたたちに向かって飛んでくるだろう。歴史は常に繰り返される」 二人は大邱(テグ)・慶尚北道の政治家です。朴槿恵(パク・クネ)元大統領に対する大邱・慶北の思い入れには特別なところがあります。しかし、政権与党の政治家たちが「我々もやられたのだから、あなたも一度やられてみろ」というふうに主張するのは、どう見ても穏当ではないと思います。 ■地獄の門が開いたようだ 韓国での政治的報復の歴史は思ったよりそう長くはありません。金泳三(キム・ヨンサム)元大統領は生涯、金大中(キム・デジュン)大統領を憎んでいましたが、起訴を試みることはありませんでした。むしろ任期末に大統領選挙を2カ月後に控えて「金大中裏金事件」が起きると検察に捜査の留保を指示しました。金大中大統領は、通貨危機を招いた刑事責任を前任者の金泳三元大統領に問いませんでした。「税風」事件(イ・フェチャン総裁の側近が税務調査における優遇を約束し大統領選挙資金を募った事件)見返りにの時、(ハンナラ党の)イ・フェチャン総裁を司法処理することもありませんでした。盧武鉉(ノ・ムヒョン) 大統領も、ハンナラ党の「トラックごと贈収賄事件」の時、イ・フェチャン総裁を起訴しませんでした。 ところが、李明博(イ・ミョンバク)大統領時代から変わりました。李大統領は任期初め、米国産牛肉の輸入問題で支持率が落ち込んだことを受け、前任者(盧武鉉大統領)をスケープゴートにしました。結局悲劇に突き進みました。朴槿恵国政壟断事態の逆風で政権を握った文大統領は「ろうそく」の念願に背を向けることができませんでした。パク・ヨンス検事や尹錫悦検事たちを前面に出して二人の前任者を起訴しました。文大統領は「積弊清算」と主張しましたが、保守勢力は「政治的な報復」と非難しました。 積弊清算の鋭利な刃だった尹錫悦検事が保守政党に入党し、大統領選候補の座を獲得し、大統領に当選する過程は、一編の巨大なドラマでした。しかし、尹大統領の当選は逆説的に政治報復という悪循環を断ち切る良い機会でもありました。なぜなら、尹大統領は検察権力の習性を誰よりもよく知っている人物だからです。検事時代に「検事が捜査権を持って報復したら、それはヤクザであって、検事とはいえない」と語ったこともあるからです。 しかし、もうすべて台無しになりました。どうやら地獄の門が開いたようです。これから何が起きるのでしょうか。文前大統領が起訴されるとしたら、尹大統領は退任後どうなるのでしょうか。同じ釜の飯を食ったのだから、検察は大目に見てあげるのでしょうか。そんなはずはありません。刃は血を招くものです。 尹大統領の後を継ぐ次の大統領はまたどうなるのでしょうか。韓国の大統領の座は悲惨な死に遂げるか、刑務所に行く呪いがかかっているのでしょうか。私たちはその呪いを解けるでしょうか。皆さんはどうお考えですか。 ソン・ハニョン政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )