1型糖尿病患者 歯の神経治癒が遅れるメカニズム解明 新潟大
主に自己免疫疾患の一つである1型糖尿病の患者が歯の神経の治療を行った際に、通常の患者より治癒が遅れるメカニズムを、新潟大学の研究グループが解明した。健常な人に現れる歯の修復に必要な細胞があまり出現せず、免疫細胞のマクロファージのバランスも炎症促進に偏っていた。研究チームは生活習慣病由来で発症する2型糖尿病でも同様の現象が起こっているか研究を進め、新しい治療法を確立したいとしている。
1型糖尿病は子どもに多くみられ、自己免疫により血糖値を制御するホルモンのインスリンを分泌する細胞が壊され、インスリンが欠乏することで全身の血管が傷ついたり、臓器に損傷が起きたりする。また、健常な人よりも虫歯や歯周病になりやすいとされ、神経に届く虫歯で来院したときに通常の治療では治癒成績が下がり、神経を保存するのが難しくなることなどが課題になっていた。
新潟大大学院医歯学総合研究科う蝕(うしょく)学分野の大倉直人助教(歯内(しない)療法学)らの研究グループは、1型糖尿病の患者が健常な人の歯より治癒が遅れる原因を解明することで、適した治療アプローチができると考えて研究に取り組んだ。
大倉助教はまず、ラットの左上の奥歯に神経の一部まで進行した虫歯があったと仮定し、直接覆髄(ふくずい)法という方法を用いて実験した。顕微鏡下で歯に小さな穴を開けて神経の一部を切りとった後、強アルカリ性で殺菌力のあるMTAと呼ばれる歯科用セメントを挿入。唾液や細菌が入らないようコンポジットレジンという光で固まるプラスチックでフタをし、MTAセメント直下の神経の様子を観察した。
大倉助教が約20匹のラットを確認したところ、健常なラットでは神経内で象牙芽(ぞうげが)細胞という象牙質を作り出す細胞が現れ、活性化していたが、1型糖尿病にしたラットでは象牙芽細胞がほとんど観察できなかった。神経が生きている歯には元々細胞による修復力があるが、それが損なわれている形だ。