老犬と暮らす(2)「罪悪感」から生まれた犬の介護Howto本
2000年代のペットブームから10年余り。当時初めて犬を飼い始めた人たちの中には、今や老犬となったパートナーと暮らしていたり、既に別れを経験した人も多いと思う。僕もその両方を経験している1人だ。犬は人間よりも寿命が短いから、ほとんどの飼い主は別れを経験する。そして、飼い主と犬の数だけ、老犬との暮らしや別れのエピソードがある。ここでは、長年犬関係の取材を続けている僕の経験の中でも、「老犬」にまつわる特に印象的な3つのケースを紹介したい。(内村コースケ/フォトジャーナリスト) 老犬と暮らす(1)「掟を破ってでも」盲導犬と添い遂げたい/ユキ・27歳
苦しむ愛犬を前に知識の無さ痛感
犬の介護生活を成功させるために大切なのは「時間」「労働力」「お金」――。薬剤師・ライターの高垣育(たかがき・いく)さんが、『犬の介護に役立つ本』(山と渓谷社=緑の森動物病院・本田英隆院長監修、高垣育・上田泰正共著)で書いている結論の一つだ。 介護は長い期間にわたる場合もあり、一度始まったら待ったなし。「家族それぞれのライフスタイルを考え、1日のうちどれくらいの時間をワンちゃんの介護にあてられるか確認しましょう」と、高垣さんらは訴える。同時に、毎日無理することなく介護に当てられる「労働力」がどれくらいあるかを認識し、「お金」という現実にも目を向けて、それぞれの事情に合った介護生活をイメージしておこうと記す。そうした基本的な心構えに始まり、歩けなくなった犬の移動のサポート、食事や排泄のサポートといった具体的な介護法の「How To」が網羅されている。 同書は、現在37歳の高垣さんの最初の著書だ。実家で飼っていたオスのゴールデン・レトリーバー、『てん』に対する思いが、結実した。「てんの介護生活は1か月くらいしかなかったのですが、排泄の世話などを通じて、自分たちに知識がない事を実感させられました。知識がないせいで目の前で苦しんでいる犬が辛い思いをするんだと、すごい罪悪感というか、申し訳ない気持ちでいっぱいになったんです」と高垣さんは語る。 てんは2010年に13歳で亡くなった。高垣さんは、それまで「空気のように、そこにいて当たり前」の存在だったてんが家にいなくなった事に耐えられなくなり、通勤の都合もあって翌年実家を出た。その後、実家で新たにキャバリアの『空次郎』を迎えたのを機に、心の中で大きくなっていたことを実行する決心をした。「空次郎が要介護になった時に、前よりは介護や治療の選択の幅が増えていれば……」という思いが、「自分の手で介護の本を書く」というチャレンジを後押しした。