老犬と暮らす(2)「罪悪感」から生まれた犬の介護Howto本
子犬が「ぽんっ」と見上げていた
てんが来たのは、高校3年生の夏だった。子供の頃から犬が飼いたくて仕方なかった高垣さん自身、そして両親にとっても念願の犬だった。両親はともに独身時代に犬を飼ったことがあったが、結婚後はマンション住まいが続いたので何十年もブランクが空いていた。念願の一戸建てに引っ越したのを機に、満を持して迎えたのがてんだったのだ。 「夏期講習から帰ってきたら、玄関にダンボールが置いてあって、中をのぞいたらちっちゃくてころころした子犬が『ぽんっ』って見上げていました」。一家で、てんを溺愛した。子犬の頃はそれなりにやんちゃをしたが、「性格は、おっとりしていました。何をしても怒らない。鼻をぐりぐりされても平気(笑)」 。 ただ、今思えば将来の介護のことなどは家族の誰も考えていなかったと、高垣さんは振り返る。「母が昔飼っていた犬はマルチーズ、父は柴犬だったんですけれど、何十年ものブランクを空けてそれよりもずっと大きい大型犬を飼うなんて、少し考えが浅かったかな、と思います」。 高垣さんのこの言葉を聞いて、とても誠実で謙虚な人だという第一印象が確信に変わった。僕の両親もリタイアして田舎の一戸建てに引っ越したのを機に、ゴールデン・レトリーバーを飼いはじめたのだが、数十年のブランクどころか、犬を飼うのは全く初めてだった。親戚に誘われてペットショップに行き、釣られて買ってきたなんていう超いい加減な出会いである。まして、両親はその時70をとっくに過ぎていた。 その犬は『マリー』と名付けられ、やはり甘やかされたが、「飼い主とどっちが先に要介護になるのか」と心配していたら、父はマリーがまだ4歳の時にポックリ逝ってしまった。今は79歳の母と7歳のマリーの2人暮らしだ。母は「私が倒れたらマリーはあんたにお願いする」なんていい加減な事を言っている。だから、正直、僕は高垣さんの誠実さに、恐縮し、赤面してしまうのだ。