ハスラーやウェイクが新境地 “高付加価値”軽自動車の時代始まる
このクルマでどう楽しみますか?
ハスラーは、実質的には車高「中」のワゴンRをベースに内外装のデザインをやり直したコスメティックモデルと言える。車高「中」クラスは機能面からみればもはや保守中道。もっともバランスの良い、といえば聞こえが良いが突出した何かがない当たり前の軽自動車である。そこそこ広く、そこそこ走る。走りは多少諦めて空間を最大最強にしましたという車高「高」クラスのような突出したアピールポイントに欠ける。 車高の低いクラスの立て直し策としてアルトが個性的な方向へ向かった今、一番空洞化を恐れなければならないのが車高「中」クラス。しかもそこが売上的にボリュームゾーンであるからなおさらだ。そのために徹底的にキャラを立てる方向を目指したのがハスラーだ。 ハスラーは誰が見ても分かりやすいSUVスタイルで、ストレートに遊びの匂いを振り撒くデザインだ。色もポップな多色展開にして、真面目な実用品というどこか貧乏くさい軽自動車の空気を払拭することを狙った。
昔ほど車格意識はなくなったとは言え、まだ世間には軽自動車に対する偏見は根強く残っている。現在の軽自動車の価格を見れば、Bセグメントあたりの普通車とさして変わらず、もはや安物とはとても言えない状況にある。それでも偏見にさらされるというのは馬鹿馬鹿しい話だが、そういう見られ方が少なければ快適度が増すのも事実だ。ハスラーはそこのニーズを上手く突いた商品になっている。
一方、ウェイクもなかなか面白い。ウェイクはついに車高1800ミリの壁を突き破り、なんと1835ミリという前代未聞の車高を採用して来た。こうなると普通に広いと言ってももはや意味がない。そこで「遊び道具を満載して出掛ける」という訴求を行った。遊びのスペシャルツールとして巨大空間を売りにするコンセプトだ。 この2台に共通するのは、生活の道具としての軽自動車ではなく「あなたはこれで何をして楽しみますか?」という問いかけである。そしてそれはコペンやS660も同じだ。アシとして必要だから買うクルマではなく、それを買うことによって、今まで出来なかったことができるようになる。そこに軽の高付加価値モデルの存在価値があるのである。
安くて雨風がしのげる最低限の自動車からスタートした軽は、やがて十分に実用的な日常のアシとして発展を遂げ、ついに楽しみのために買うものへと発展しようとしている。 この十数年、自動車が売れないのは「若者のクルマ離れのせい」と責任転嫁を続けてきた自動車メーカーの殻を打ち破り、新しい時代の自動車ニーズを切り拓くかもしれない“高付加価値”軽自動車がどうなるかは、自動車産業全体にとって大きなターニングポイントになりそうな予感がする。 (池田直渡・モータージャーナル)