「打撃投手の100人中50人はイップスになる」逆転日本一へ、ホークスの名物打撃投手が語るプレッシャーに打ち勝つ難しさ
プレッシャーと上手く付き合う
いつもなら簡単にできることが、緊張すると上手くできなくなってしまうというのは誰もが経験することだと思います。 どの程度の出来事で緊張するか、どの程度の緊張を強いられるか、どの程度できなくなってしまうかは、これらは大きな個人差があります。ほんの些細なことで激しく緊張してボロボロになってしまう人もいれば、緊張はしても大きく崩れない人もいます。一般論では片付けられないほど個人によって違います。 基本的には「慣れ」によって緊張感は和らげられ、はじめは上手くできなかったことも少しずつ実力どおりできるようになっていきます。しかし、すっかり慣れたはずだったのが、小さなことから突然大きく歯車が狂ってしまうこともあります。 打撃投手にとってもっとも難しいのは、こうした心理的な重圧との付き合いです。 医学的な定義とは違うかもしれませんが、今まで普通に投げていた打撃投手が、ちゃんと投げられなくなってしまうのを私たちは「イップス」と呼びます。 私の感覚で言うと、もし打撃投手が100人いたとしたら、半数の50人がイップスになり、うち半数の25人が打撃投手をやめてしまう、それくらいの頻度で発生しているように思います。
深刻な職業病「イップス」
そんな深刻なイップスですが、正直なところ、その実態についてはよくわからないことばかりなのです。必ずしも経験のない若手だけがなるわけではなく、経験豊富な打撃投手がなることだってあります。私も本当にイップスにならないようにと注意しながら投げてきました。 典型的なパターンは「たった1球のデッドボール」から始まるものです。 チームを代表するような主力打者に対して、球が抜けてしまい、体に当ててしまう。一流の打者の多くはバッティング練習を非常に大事にしています。1球たりとも気を抜いたスイングはしません。私の目には、そういう練習を積み重ねているからこそ一流の打者になれたのだと思います。バッティング練習中はひとりの世界に入って、意図を持って打席に入り、私の状態をチェックします。その様子はピリピリしていて怖いほどです。 打撃投手もそれがわかっているからこそ、緊張してしまい、手元が狂って抜け球となってぶつけてしまう。私からすれば、そりゃあ緊張すればそういうこともあるかもしれないよなと言ってあげたいけれど、投げた本人を含め、バッティング練習を見ている監督やバッティングコーチからすれば、「絶対にあり得ないこと」なのです。 その1球の次の球は、絶対にぶつけられないと考えて、引っかけてワンバウンド、もうこうなると、頭で考えていることと動作が結び付かなくなり、「引っかけワンバウンド」しか投げられなくなってしまいます。このパターンはとても多く見てきました。