「打撃投手の100人中50人はイップスになる」逆転日本一へ、ホークスの名物打撃投手が語るプレッシャーに打ち勝つ難しさ
打撃投手の難しさは説明が困難
バッターやバッティングコーチなど現場の関係者に聞いてもらえば、打撃投手は大事な練習パートナーだと言ってもらえる自信がありますが、それ以外の人、特に現場から遠く、損益の計算に携わる人たちには、打撃投手の重要性、必要性はなかなか理解してもらえず、極論すると「誰にでもできる仕事」「短時間労働の楽な仕事」「無駄なコスト」といった感じで見られることがよくあるようなのです。 私の耳に直接入ってきたことはないのですが、どこの球団でもそういうことがままあるようなのです。だったらやってみなよ、そう簡単な仕事じゃないんだから……。 そう言いたくなりますが、何がどう難しいのかを説明するのがなかなか難しい。確かに仕事内容自体は、そんなに難しそうに見えないでしょう。一番の難しさはイップスが頻発するような精神的な部分なのですが、そもそもそのイップス自体、正体を説明できません。 どういう時になりやすいかとか、どんな心理状態になっているかとか、そういうことは経験者から聞くことができますが、どうすれば予防できるのかは確たる答えが見つかりません。いったい打撃投手の何が難しいのかと説明するのが難しいのです。 イップスを克服して、打撃投手に復帰する人もそこそこいます。どのように克服したのかと聞くと、例外なくとにかく数を投げて、克服したといいます。 謎に満ちたイップスですが、技術を上げることで克服している人がかなりいるのを見ると、メンタルと技術と両方が関係しているように思います。私も子ども時代から球数についてはめちゃくちゃ投げてきた自信がありますので。
投げて感じるいい打者とそうでない打者の違い
私が投げていて感覚的に思うことなのですが、一流の打者と評価されるようなバッターのほうが、1球1球考えながら、集中力高く大事に打っている感じがあります。 一軍に上がったばかりの駆け出しの若いバッターに投げることもありますが、そういうバッターのほうが何か淡々と打っている、言葉は悪いですが「ただ打っているだけ」と感じることがあります。 もしかしたら若いバッターたちのほうが量は多く練習しているのかもしれませんが、質という意味では一流選手たちには遠く及ばないように思います。 だからこそ一流選手になれたのだということかもしれませんし、数をこなすことによって技術力が身につき、その次の段階に進めるのかもしれません。バッターではないので、そのあたりのところまではわからないのですが、練習の質に違いがあることは投げていても確実に感じます。
---------- 濱涯泰司(はまぎわ やすじ) 1970年10月3日生まれ。鹿児島県出身。鹿児島商工高等学校(現・樟南高等学校)、九州国際大学を経て1992年ドラフト3位で福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に入団。1999年に引退後、打撃投手へ転身。以後、25年間にわたり投げ続け、裏方からチームを支える。 ----------
濱涯泰司