トランプ政権誕生はBEV大国の中国にとって茨の道! BYDのメキシコ工場建設の流れはどうなる?
メキシコの工場はアメリカへの輸出向けではない?
BEVの輸入販売へ対する関税免除措置から始まり、その後完成車工場を現地に建設し、その結果、地元雇用への貢献を政府が期待しているとしたら、その流れは数年前のタイを思い出すようである。 タイも国内での完成車工場稼働を条件に、それまでの数年間は好条件を用意し、中国からの完成BEVの輸入販売を優遇していた。タイでの工場建設も、当然周辺国などへの輸出も考慮されていただろう。メキシコは、すぐ隣に世界第2位の巨大市場をもつアメリカがあるのだから、当然アメリカへの完成車輸出も考慮した計画が練られたはずである。 少し調べただけで、先述のとおり7ブランドほどの中国メーカーがすでにメキシコで新車販売を展開している。仮にその7ブランドがさまざまなタイプのBEVを現地生産し、そしてアメリカ市場へ出荷すれば……、トランプ次期大統領が「200%関税かけるぞ」とするのもけっしてオーバーではなく、来たるべき事態を未然に防ぎたいという想いを表現したものなのだろう。 中国メーカーのBEVがアメリカ国内、とくにBEVの普及がめざましいカリフォルニア州に入ってくれば、まず韓国ブランドのBEVが大打撃を受けることになるだろう。海外で中国メーカーのBEVがよく売れている地域では、価格面も含め、「キャラ被り」しやすい韓国車はモロに中国メーカーBEVの波をかぶってしまうのである。アメリカ車でもシボレーやフォードといった量販ブランド系モデルへの影響は避けられないであろう。キャデラックといった上級ブランドか、ハイパフォーマンスBEVなどの投入で差をつける必要が出てくると予測できる。 それではカリフォルニアにおける日本メーカー製BEVへの影響は? としたいところだが、BEVが人気なカリフォルニア州でも、日本メーカー製BEVの存在は限定的といっていい状態なので、いまのところはなんともいえない。ただ、相乗効果というか、経済性にフォーカスすれば、日本メーカーのHEVのほうが高い支持を受けているので、いま以上に日本メーカー製HEV販売を盛り上げてしまうかもしれない。 日本では「中国アレルギー」が大きいが、アメリカのそれはさらに輪をかけたものともいわれている。アメリカにおける自動車というのは、それを所有する人の人柄や所得水準(ローン審査が下りないなど身の丈にあったクルマしか買えない)を直接的に表現するものとされている。韓国系ブランドすらようやくブランドとして認知されようとしているといった状況となっている。 しかし、以前フランスでBYD車の販売をはじめたころ、BYDは意外なほど「パリジャン(わかりやすくいえば江戸っ子のようなもの)」に評価され選ばれているとの現地リポートを見たことがある。ブランドは別としても、中国メーカー製BEVの多くは価格設定に対する見た目や性能の高さがあるので、アメリカの業界人が警戒するのも無理のない話。ただ、売りこみたい中国メーカーとしても、勢いに任せて売り続け、アメリカメーカーの工場廃業、それにともなう失業者の発生を招いてしまえば元も子もない。 「中国メーカーも総合判断して遠まわりになっても、アメリカ国内で雇用に貢献しながら現地生産してアメリカ国内で販売していくのではないか(メキシコの工場はあくまで中南米市場向けなのではないか)」といった声もあるが、2025年1月から4年間は第二次トランプ政権となるのだから、その道はまさに「いばらの道」になったと、現状は考えることができるだろう。
小林敦志