移転によりさらに進化した「麻布台 中むら」店主が心からリスペクトする行きつけとは?
新鮮な食材を油は使わず蒸すように焼く
「胃もたれも食べ疲れもしない」「完食しても食後感が爽快」。多くの肉通・食通がそう絶賛する中村氏の肉料理は、油や調味料を使わないのが特色だ。
鉄板焼きで使用するカービングフォークやヘラとともに置かれているのは、何枚もの清潔な白い布。肉を焼く間、こまめに布を替え、鉄板を拭きながら焼き上げるのが中村流。これにより、食べ疲れせずうまい肉になる。 「鉄板焼きは、素材の水分による蒸し料理。そこで必要になるのは新鮮な食材。少しでも寝かせた食材はくさみが出てしまいます」と中村氏。肉は、川岸牧場産神戸牛や上田畜産の但馬牛、竹の谷蔓牛(たけのたにつるうし)、松阪牛などトップクラスの生産者から仕入れて使うが、生産者ととことん話し合うことを忘れない。
商業施設では困難な炉窯を導入
素材の持ち味を最大限に引き出す熱源として、炉窯を導入したのも大きな特色だ。ガスや電気に比べ高温になる炭火を使用する炉窯は、対流熱や輻射熱によりオーブンのような状態をキープでき、高温で均一な火入れが可能になるなどのさまざまな利点がある。
しかしその一方で消防法のさまざまな規制をクリアする必要があり、商業施設への導入は困難を極める。「麻布台ヒルズ」における今回の炉窯導入の陰には、中村真利という一人の職人へのリスペクトがあったからに他ならない。
神戸牛と鉄板焼きと日本料理
「子供のころの好物が鶏と豚だったこともあり、亡き母親が焼いてくれたステーキが硬くておいしいと思えなくて。ホテルで働きはじめてもステーキに興味はありませんでした」と苦笑いで話す中村氏が見習いのときに諸先輩や親方の賄い担当になり、「親方の好物が和牛のステーキ。ある日親方に隠れて食べた当時の和牛サーロインのあまりのおいしさに、全身が震えるほどの衝撃」を受け、牛肉の虜に。
「今振り返っても特に当時の帝国ホテルの和牛は赤身の色が濃くおいしかった。その後 さまざまなホテル内のレストランでソシエ、ストーブ前などといわれる和牛にも携われるキュイソン担当に携わり20年ほど経ってから、鉄板焼きに配属され鉄板を使ったキュイソンにのめり込みました」。後に上高地帝国ホテルに和食部門の鉄板焼き責任者として配属され出会ったのが日本料理の名店「吉兆」だ。「幸せなことに、吉兆さんから配属された料理長と意気投合することでさらに日本料理を学ぶことができました」 そんな中村氏に料理で大切にしていることをうかがうと「お客様が食後から翌日、体調が良くなるお料理を作ることを心がけています。特に和牛は脂っこくて胃がもたれるなどと誤解される食材なので、仕込みは丁寧に時間をかけて、昔から受け継がれている偉大な料理人の方々の基本は大切にしながら、できるだけ自然に、より身体に負担が無いように工夫しています」