サラリーマン生活に挫折、イラストレーターに転身した「宮内ヨシオ」の創作の原点…NHK『いないいないばぁ!』のアニメも手掛けた
ほんとうの宝は四季のめぐりの中にまぎれている
カレンダーの絵を多数手がける宮内さんにとって、季節はとても大切なテーマだ。 宮内:この絵本の中に、「ほんとうの宝は 日々の暮らしの中にひそむ 四季のめぐりの自然にまぎれている」ということばがあります。このことばは、この絵にすごく合っています。僕にとって、季節はとても大事なテーマなんです。 谷川俊太郎さん(以後、谷川):僕は、りんごの絵がいちばん好きですね。 宮内:僕もとても気に入っている絵です。赤い色は、力が湧きますよね。 谷川:うん、エネルギーがありますよね。 宮内: 浮世絵師の歌川広重が描いた「名所江戸百景」という版画があるんですけれども、その構図が好きで、昔からすごく参考にしていて。 手前と中間と奥がはっきり分けられているという部分で、これも、一番手前に「りんご」があって、真ん中に「狼」がいて、遠景に「月」があるっていう。ちょっと原画をお見せしますね。 谷川:やっぱり原画と印刷とは違いますね。 宮内:原画の方が、色が鮮やかですよね。僕は透明水彩という画材を使って描いています。 谷川:遠くに見える白い木の枝は、どう描くんですか。 宮内:この絵の白い部分は、色を塗らずに紙の地色を活かした白のままなんです。枝の部分を残して、まわりを塗っているんです。 谷川:ほう、そうなんですか! 大変ですねぇ。
詩と絵は想像力を働かせるところが似ている
白や黒の絵の具は使わず、たった10色の水彩絵の具から無限に色を生み出していく。さらに、色を塗った部分に水を乗せて予測不可能なにじみを生み出し、唯一無二の作品を作り上げている。 宮内:僕が絵を描くときに、まず思い浮かぶのは色なんです。 谷川:ああ、形じゃなくてね。 宮内:はい。季節の野菜やくだものと合う動物を組み合わせて、描いています。それから、小さなころの自分の記憶を引っ張り出したり。そうやって、いろいろなやり方で描いているんです。谷川先生は、どんなふうにことばを書かれているのですか。 谷川:同じですね。小さいときの記憶を引き出すということもありますね。言葉の持っている具体性というのかな。絵の具体性よりももっと、ことばの場合はあるんです。だから、常に、ことばが持っている具体性みたいなものを、抽象的なことばから引き出そうとして書いていますね。 僕の場合は、どうしてもことばですね。そのことばの中に、イメージや想像力とかいろいろありますから、そうとう自由なんですよね。 目の前に見えている意味よりももっと深いところをことばというのは指示してくれるから、その意味では書きやすい。イラストはそこのところ、ちょっと決めちゃうでしょう? 不自由なんじゃないですか。 宮内:なので逆に、絵を見てもらったら、見てくれた人に勝手に想像してもらっちゃう。その人に委ねてしまうんです。 谷川:そうそう、文字の場合もそうなんです。 宮内:じゃ、ちょっと似ているところも。 谷川:似てますよね。想像力を働かせるという点ではね。